世界に例のない速さで高齢化が進む日本。拡大するシニア市場で、補聴器の市場も伸長を続けている。補聴器の世界的なリーディングカンパニーとして、日本の市場をどのように捉えているのか、代表取締役社長のベルント・ウェーバーさんに聞いた。
──日本のマーケットをどのように捉えていますか。
シーメンスは、エナジーセクター、ヘルスケアセクター、インダストリーセクター、インストラクチャー&シティーズセクターの4つのセクターから成ります。グループ全体で見ると、ヘルスケアセクターの事業規模はいちばん小さいですが、日本に限っては4つの中で最大です。その中で補聴器部門は成長を続けています。
当社にとって日本はとても重要なマーケットです。高齢化が進んでいることもありますが、ユーザーの望む品質水準が高く、日本で顧客満足を得ることが世界での成功のカギを握ります。日本での製品開発はもとより、海外で開発された製品も、多くは世界発売の前に日本でテストマーケティングを行います。例えば、業界初の防水デジタル補聴器は、高温多湿で補聴器にとって厳しい環境である日本で繰り返し試用テストを行ってから発売されました。日本の高温多湿の環境に耐え、厳しい日本のユーザーのニーズを満足させられる製品であれば世界でも受け入れられると考えたからです。
──シーメンス補聴器の強みとは。
シーメンスの創業者、ヴェルナー・フォン・シーメンス氏は、発電機や電信機など電気工学の分野で様々な発明を行ったエンジニアでした。最新鋭の技術の探求というエンジニアとしての彼の精神は、1847年の創業から今日まで脈々と受け継がれています。シーメンス氏の補聴器開発は1878年に始まり、1949年にポケットサイズの補聴器、59年に耳かけ型補聴器、66年に耳あな型補聴器、87年にリモコン制御補聴器、97年にデジタル補聴器、2011年に防水デジタル補聴器と、常に時代の先を行く製品を提案してきました。技術力に基づくその品質こそが当社の強みだと考えています。
──シーメンスの補聴器に対するユーザーの反応をどのように受け止めていますか。
補聴器は人生の可能性を広げてくれます。実際、そうしたお客様からの声が届いています。以前、50代の看護師さんから、「年々耳が遠くなり、患者さんや医師の話が聞き取りづらくなってしまった。仕事を辞めるしかないと思っていたが、シーメンスの補聴器をつけたらよく聴こえるようになった。おかげで今も仕事を続けている」という内容の手紙をいただきました。こうした声を聞くと本当にうれしくなります。
補聴器のすばらしさを伝えていく使命も感じています。その上で課題としているのが、補聴器装用に抵抗感を持っている方々への訴求です。昨年のクリスマスには、色鮮やかでファッショナブルな補聴器をクリスマスツリーの飾りに見立てた新聞広告を掲載しました。今後も補聴器をつける楽しさや可能性の広がりを積極的にアピールしていきたいと思っています。
──エンジニア出身の経営者ですね。
シーメンスの職業訓練学校で産業力学などを学んだ後、ドイツ、イギリス、スペインの大学で機械工学や自動車工学を学びました。大学卒業後もしばらくはエンジニアとして働きましたが、仕事の内容はだんだんとマネジメントにシフトしていき、今に至っています。
面白いことに、エンジニアの仕事とマネジメントの仕事には共通点があります。エンジニアは、問題解決のためにどういうプロセスを踏めばいいのかをとことん突き詰めます。何か大きな故障が起きたら、一つひとつの部品を見直し、全体に影響を及ぼしている小さな故障を探し出し、修繕や交換をして全体の機能を回復させます。マネジメントも、例えば売り上げ不振という問題が起こったら、各地域の売り上げ、顧客層、競合相手、営業手法などを一つ一つ分析し、うまく機能していない部分の改善に努めます。そうした業務においてエンジニアの経験が生きていると思います。
──リーダーとして最も力を入れていることは。
人材活用です。私の人事基準は、「attitude(態度)」と「aptitude(実行するスキル)」です。具体的には、お客様目線、学習能力、好奇心、応用力、調整力、解決力、決断力、責任感を持った人。「aptitude」はトレーニングできますが、「attitude」はトレーニングが難しい。そういう人が見つかれば、全面的に仕事を任せ、自由に動いてもらいます。もちろん社長として仕事の内容はチェックし、惜しみなくサポートしますが、優秀な人ほど自分の頭で課題を見つけて解決できる。素質のある「スター社員」をどれだけ採用できるかが、最大の任務だと思っています。
──販売店によく足を運ぶそうですね。
一年の半分以上は現場訪問に時間を割いています。現場に行くと、営業や販売の担当者と一緒に行動します。お客様対応もランチも共にします。売り場の話を直接聞くことで、今、お客様が何を求めているのか、会社に何が必要なのかといった課題が見えてきます。それは本社にいてはなかなか分かりません。私が行くと最初は皆さん緊張しますが(笑)、ランチを共にすると打ち解けてくれて、いろんなことを話してくれます。
──愛読書は。
最近では、『ファスト&スロー あなたの意思はどのように決まるか?』が面白かったです。人間の意思決定の仕組みを認知心理学的に解き明かす本で、社員の決断をサポートし、自らも多くを決断する立場として参考になりました。私が学んだカナダのマギル大学のヘンリー・ミンツバーグ教授の著書『マネージャーの実像 「管理職」はなぜ仕事に追われているのか』も、マネジメントに役立つ内容が満載でした。
シーメンス ヒヤリング インスツルメンツ 代表取締役社長
1968年ドイツ生まれ。ドイツ、イギリス、スペインの大学で機械工学や自動車工学を学ぶ。95年から2001年9月までマンネスマン社勤務。01年10月シーメンスヘルスケア入社。04年カナダのマギル大学でMBA取得。08年から現職。
※朝日新聞に連載している、企業・団体等のリーダーにおすすめの本を聞く広告特集「リーダーたちの本棚」に、ベルント・ウェーバーさんが登場しました。(全国版掲載。各本社版で、日付が異なる場合があります)