学生たちの個性を伸ばし、自ら課題を見つけ、解決できる人材に育てたい

 昨年創立100周年を迎えた成蹊学園。本年度から6年間を達成期間とする中期重点目標を策定し、グローバル人材の育成を念頭に置いた教育改革に取り組んでいる。学園長の橋本竹夫さんに、教育理念や今後の取り組みなどについて聞いた。

 

橋本竹夫氏 橋本竹夫氏

――成蹊学園が掲げる教育理念とは。

  成蹊学園の創立者である中村春二先生は、人間育成と人格養成を教育の根幹に据え、「個性の尊重」「品性の陶冶(とうや)」「勤労の実践」という3つの理念を掲げました。この理念を礎に、一人ひとりの個性を認め、型にはめず、持っている資質を伸ばす教育を目指しています。

  教育の成果は、卒業生の活動に表れます。本学の卒業生というと、現在は安倍晋三首相がいちばん有名かもしれませんが、政界だけでなく、実業界、出版界、教育界、放送界、文壇や芸術の分野など、様々なジャンルで多くの人たちが活躍しています。また、本学出身者は、自ら手足を動かして人が避けたがる面倒な仕事を引き受ける人が多いように思います。それはひとえに、中村先生の理念に基づく教育のたまものだと考えています。

──本年度から6年間を達成期間とする中期重点目標を策定しました。目標を達成するための4つのテーマとして、「グローバル化の推進」「教育・研究の質の向上」「組織・経営基盤の強化」「産業界・地域との連携」を掲げています

  グローバル社会では、自分で課題を発見し、他者と協働しながら解決に導いていけるリーダーシップが求められます。そのためには、読む力、書く力、数理といったリベラルアーツ、すなわち、確かな基礎学力と豊かな教養の修得が必要です。さらに、学力と教養をもとに自分の意見をまとめ、人に伝えられる情報発信力がなければいけません。 そうした人材を育成するため、成蹊学園では、留学、インターンシップ、ボランティアなど、課題解決を実践する体験型学習を豊富に用意しています。

  グローバル化の推進においては、これまでも世界21大学と協定留学制度を結び、留学生を派遣してきましたが、今後はさらにその数を増やしていきたいと考えています。増やすうえでは、留学先の大学を吟味し、できるだけ「本物」に触れてもらいたいと思っています。外国人と一緒に学生生活を送ることで、新しいものの見方や、幅広い知識が養えるはずです。来年度は、1年次の早い段階から100人規模でオーストラリアのモナシュ大学に短期留学生として派遣する予定です。

  PBL(Project-Based Learning)というプロジェクト型授業では、企業が抱えている課題を教室に持ち込み、学生たちが課題解決のためのアイデアをまとめて提案しています。つい先日、学生たちの発表会を見ましたが、なかなかのものだと思いました。課題提供企業からも歓迎されています。

――成蹊学園の強みとは。

  小学校から大学・大学院までが一つのキャンパスにあることです。たとえば、小学校の英語クラスの教育を大学生がティーチングアシスタントとして手伝ったり、小学生の課外活動を大学生が指導したりといった取り組みを行っています。また、上の学校に進んでも、恩師がキャンパス内にいるので、何かある時はフェース・トゥ・フェースで気軽に相談できます。一貫教育には、確かな基礎学力と豊かな教養を長いスパンの中で自然に身につけてもらえるという利点もあります。その一方で、中学から入った生徒、高校からの生徒、大学からの学生にも、成蹊の理念に基づく教育の質を保証しています。

――「教育の質の保証」という意味で重視していることは。

   生徒一人ひとりの個性を刺激し、フロンティアスピリットを持った人材を育てていきたいと考えています。そのためには、教員たちのモチベーションを高め、その情熱を維持してもらうことが重要です。避けなければならないのは、教員の居心地優先に流れてしまうことです。教育の質を保証するために、いい意味での競争原理を持ち込むことも大事だと思っています。教員同士が修練し合い、それぞれがポジティブな気持ちになれるような環境を目指しています。

――橋本さんご自身も成蹊学園で学ばれました。身をもって感じた成蹊学園の魅力とは。

   私の3人の兄は小学校から成蹊に通っていました。でも、どういうわけか、私だけが別の小学校に入れられました。小学校3年生の時には腎臓病を患って絶対安静を余儀なくされ、休学期間は3年に及びました。病気は治りましたが、家から近い学校のほうがいいだろうと、住んでいた渋谷区の区立小学校に編入しました。私と成蹊とのつながりは中学からで、兄たちが通ったあこがれの学校として受験し入学しました。晴れて成蹊に通えることになった喜びは、それは大きかったです。長く学校を離れていたので、勉強するのが楽しくて仕方がありませんでした。何といっても中村先生の教育理念がすばらしく、大学院卒業までの15年間を成蹊学園で過ごしました。

   卒業後は、つくば市にある日本自動車研究所で4年ほど研究員として勤め、再び縁あって成蹊大学工学部機械工学科の教員として採用されました。自分が謳歌(おうか)したキャンパスライフを後輩たちにいかに伝えるかということに心を砕く一方で、しっかり力をつけて卒業してほしかったので、学生にとっては厳しい教員だったと思います。それでも、卒業後も一緒にお酒を飲もうと誘ってくれる教え子たちがたくさんいるのはうれしいことです(笑)。

   また、成蹊学園で培われた人脈は、私にとってはかけがえのないものです。同学年の仲間だけでなく、先輩も後輩も、いろんな形でつながっている。それは、成蹊学園の特徴といえると思います。

橋本竹夫氏 橋本竹夫氏

――リーダーとして心がけていることは。

   少子化が進む中、競争力に欠ける教育機関は生き残っていけません。そうした中、当学園は昨年4月よりガバナンス改革を進め、意思決定の迅速化をはかり、教育改革に取り組みやすい体制に改めました。今後は、中期重点目標を達成できるよう努めていきます。いろんな意見に耳を傾けることももちろん重要ですが、目標を掲げたからにはブレることなくこれを貫いていくことが私の務めだと思っています。

――愛読書は。

  幼少期からたくさん本を読んできました。成蹊学園の卒業生には出版関係者も多く、そのコネクションを通じて本の情報を得ることも多いんです。最近では、小学館社長の相賀昌宏さんに紹介いただいた『EDO-100フカヨミ! 広重「名所江戸百景」』、当学園理事で大正製薬の会長の上原明さんに紹介いただいた『フェリックス・ロハティン自伝 ニューヨーク財政危機を救った投資銀行家』、同文舘出版社長の中島治久さんに紹介いただいた『これからのビジネスリーダーに贈る45の視点 世界で通用する日本人であるために』が面白かったです。

橋本竹夫(はしもと・たけお)

成蹊学園 学園長

創立者・中村春二先生の教育理念に心酔した両親の方針で成蹊中学入学。高校、成蹊大学工学部を経て同大学院工学研究科博士課程単位取得退学(工学博士)。日本自動車研究所研究員を経て1979年から成蹊大学工学部教員。2006年から専務理事。07年同大学名誉教授。13年4月から現職。

※朝日新聞に連載している、企業・団体等のリーダーにおすすめの本を聞く広告特集「リーダーたちの本棚」に、橋本竹夫さんが登場しました。(全国版掲載。各本社版で、日付が異なる場合があります)

広告特集「リーダーたちの本棚」Vol.57(2013年12月23日付朝刊 東京本社版)