「シャボンちゃん」のキャラクターで知られるシャボン玉石けん。1910年、雑貨店「森田範次郎商店」として創業。2代目の森田光德(みつのり)さんは、高度成長期に合成洗剤の製造・販売で業績を拡大。だが、健康面では原因不明の湿疹に悩まされていた。そんなとき、旧国鉄から機関車を洗うための無添加せっけんの注文が舞い込む。その試作品を洗たくや体洗いに使ったところ、うそのように湿疹が消えた。光德さんは、合成洗剤をやめ、74年から無添加せっけんの製造を開始。3代目の隼人さんは、「健康な体ときれいな水を守る」という理念を受け継ぐ。
──シャボン玉石けんは常に身近にあったと思いますが、商品の価値についてどのような認識を持っていましたか。
先代が、せっけんと合成洗剤の違いを多くの人に知ってもらいたいと著した『自然流「せっけん」読本』を学生時代に読んでいたので、商品特性はわかっているつもりでした。シャボン玉石けんの使い心地の良さも家で実感していました。でも、その価値を本当の意味で理解したのは、入社してからです。
シャボン玉石けんは、天然油脂を原料とし、有害とされる化学物質や合成添加物を使っていません。また、伝統的な釜炊き製法である「ケン化法」にこだわり、まるで料理を作るように、熟練の職人が丁寧に火を通します。仕上げの際は、出来の良しあしを舌でなめて確認します。それほど安全性が高いということです。こうした製造工程を見て、優れた独自技術を確認しました。さらに、通信販売部で研修した際、お客様からのたくさんの喜びのお手紙を目にし、「こんなに支持されているのか」と身の引き締まる思いがしました。
──一方で、課題としたことはありますか。
製品の均質化です。シャボン玉石けんには保存剤を入れていないので、長い期間置いておくと酸化して変色することがあります。品質は変わらないので、使用時にはまったく問題ありません。ただ、同じように製造しても変化の早い遅いがあり、できるだけバラつきのないようにしたい。そこで今、大学の先生と連携しながら酸化のメカニズムなどの研究を行っています。
産学連携のメリットに気付いたきっかけは、北九州市消防局から「天然成分の消火剤を開発できないか」という依頼を受けたことでした。開発を始めた当初はトントン拍子に進んだのですが、あるとき技術的な壁にぶつかってしまったのです。どうしようかと悩んでいたところ、市の仲介で北九州市立大学の先生にご協力いただくことになり、商品化にこぎつけました。
──2005年から液体せっけんの製造を始め、主力商品に成長しました。
『自然流「せっけん」読本』を出版した1991年の時点では、先代は、液体せっけんを作らないと言っていました。粉せっけんであれば少量で洗浄でき、輸送面でもコンパクトでエコだからです。ただ、消火剤の研究開発を進める中で、はからずも液体せっけんのノウハウが蓄積していきました。何しろ800種類くらいの試作品を作ったんです。液体せっけんのニーズの高まりもあり、「これなら、お客様に喜んでいただける」と先代も納得するレベルに達し、販売を開始しました。
──2007年3月に社長に就任されました。
早すぎると思いましたが、「肩書が人を作る」を持論とする先代の意向で就任が決まりました。先代が亡くなったのは、その半年後。就任したときもプレッシャーを感じましたが、重みは比べ物にならないほど増しました。心のどこかで「何かあったら聞けばいい」と思っていたのでしょう。社長になって改めて、「先代や、商品を愛してくださっているお客様に顔向けできないようなことをしてはならない」と肝に銘じました。
──2010年、「無添加を疑え。」というキャッチコピーを掲げた新聞広告を展開しました。社長自身が登場した広告はインパクトがありました。
「出たい」と言ったわけじゃないんです(笑)。広告の担当者が、私が出たほうが企業姿勢を直接伝えられると考えたようで……。ただ、確かに当社の考え方を経営者としてしっかりお伝えすることは重要で、特に自然志向が進む中で「無添加」という言葉が一人歩きしていることについて問題提起したいという思いがありました。また、無添加せっけんの魅力を伝える講演でも、私自身が全国でお客様に直接お話しさせていただいています。
2010年9月7日付 全7段×2
シャボン玉石けんの成分は、せっけん素地(天然油脂+カセイソーダ・カセイカリ)100%で、液体せっけんはそれに水が加わっているだけです。これが真の「無添加」であると考えます。ところが、添加物が入っていながら「無添加」と表している商品がたくさんあります。着色料が入っていないから「無添加」、蛍光剤が入っていないから「無添加」などと……。実は、化粧品日用品のジャンルで「無添加」という言葉を商品につけたのは当社が最初です。その自負もあって、パッケージにある成分表示をぜひ確かめてほしいというメッセージを発信しました。
──新たな取り組みについて。
産学連携で開発に成功した消火剤「ミラクルフォーム」の技術をもとに、環境配慮型石けん系林野火災用泡消火剤を開発しました。山火事などが起きたときに空から散布する消火剤です。合成界面活性剤を使った消火剤は、成分がいつまでも土壌に残ってしまいますが、せっけん成分の消火剤であれば自然に分解します。実証試験も済ませ、普及に向けて準備中です。環境保全の観点から、国内だけでなく世界的に普及してほしいと思っています。
──今後の抱負は。
無添加せっけんと合成洗剤の違いについて、正しい知識をもっと広めていかなければならないと考えています。アルコール飲料にたとえると、ビールと発泡酒と第3のビールは、見た目も味もよく似ていますが、買う人は、「自分は風味のいいビール派」「自分はリーズナブルな発泡酒派」などと、商品特性を把握し、納得した上で買っています。ところが、無添加せっけんと合成洗剤についてそうした買い分けをしている人はまだ少ない。
一方で、これまでは「体に安全だから」と無添加せっけんを手に取る方が圧倒的に多かったのが、時代とともに「環境保全のために」という方が少しずつ増えています。自然派志向の方々が集う場でのマーケティング活動など、利用者の裾野が広がるような取り組みに力を入れていきたいです。
──愛読書は。
先に紹介した『自然流「せっけん」読本』、レイチェル・カーソンの『沈黙の春』、有吉佐和子さんの『複合汚染』は、当社の必読書です。いずれも化学物質による公害の恐ろしさを論じており、健康な体と地球環境のために、多くの人に読んでほしいと思っています。
シャボン玉石けん 代表取締役社長
1976年福岡県生まれ。専修大卒。2000年シャボン玉石けん入社。問屋や百貨店などへの営業及び商品開発を担当。02年取締役副社長。07年3月から現職。シャボン玉販売、シャボン玉本舗、シャボン玉企画の代表取締役社長を兼任。
※朝日新聞に連載している、企業・団体等のリーダーにおすすめの本を聞く広告特集「リーダーたちの本棚」に、森田隼人さんが登場しました。(全国版掲載。各本社版で、日付が異なる場合があります)