日本を代表する信託銀行として「受託者責任」を胸に社会に「安心」をもたらしたい

 年金信託などの信託業務、預金・貸し出し・為替などの銀行業務、不動産売買の仲介・証券代行などを行う三菱UFJ信託銀行。取締役社長の若林辰雄さんに、昨年発売を開始して大ヒット商品となった「ずっと安心信託」の特徴や、信託銀行の今後について聞いた。

 

若林辰雄氏 若林辰雄氏

──信託銀行を取り巻く環境について、どのように考えていますか。

 デフレ環境が長年続く中、国内の給与水準は年々下がっています。ところが、20代の若年層も含めて貯蓄率は上がっています。それは、「明日の景気は今日よりも悪くなる」という意識が、社会全体に広まっているからではないでしょうか。

  私が入社した1977年当時の信託銀行のメガヒットといえば、実績配当型かつ元本保証の貸付信託で、例えば100万円を預けると、5年後には約1.5倍になって返ってくることもありました。こういう時代は、安全で便利なプランを各種企画できて商品設計がしやすかったんです。しかし、ここ10年以上はゼロに近い金利が続いており、「よりいい利回りを」と努力しているものの、他行との大きな差別化には限界があります。

 その一方で、「信頼できるところに管理してもらいたい」というニーズは非常に高まっています。また、人々の関心は「利息」から「明日への備え」にシフトしています。特に高齢の方ほど、「元気なうちに、お金の『心配』を『安心』に変えておきたい」という方が多いのです。そこで当社は、他社に先がけて元本保証、管理手数料無料の特約付き金銭信託「ずっと安心信託」を開発し、昨年3月に発売を開始しました。

──「ずっと安心信託」の特徴とは。

 「ずっと安心信託」は、200万円から信託が可能な貯蓄型商品です。ご自身の老後の生活に合わせて生活資金を計画的に受けられるうえ、万一ご相続が発生した場合、口座がいったん凍結されてしまう銀行預金と違い、簡単な手続きで残されたご家族が一時金を受け取れるので、葬儀費用などをあらかじめご準備いただけます。残った金額は、ご家族が継続して生活資金としてお受け取りいただけるという、これまでにない信託商品です。

 「海外出張が頻繁で、いつどこで何かあるかわからないので、日本にいる家族のために活用したい」という中堅世代のビジネスマンや「老人福祉施設に入っていて、月々の管理費として定額が引き落とし口座に入金されるように設計したい」という方など、当初想定していた以上にニーズの広がりがあり、発売開始後1年でご成約が1万件を超える大ヒット商品となりました。今後も、お客様の家族構成やライフステージに合わせて、幅広いメニューをご提供できるように柔軟に商品バリエーションを見直していきたいと考えています。
  元本保証、管理手数料無料ですから、この商品だけで利益を上げるのは難しいと思っています。ただ、世代を超えておつきあいいただく中で信頼を育み、不動産取引や各種資産運用など、他の事業において商品やサービスをご提供できる機会が生まれるのではないかと考えています。

──三菱UFJ信託銀行の強みとは。

 先ほど「他の事業」と申しましたが、当社の強みは、幅広い商品・サービスです。金融商品の提供だけでなく、不動産も含めた総合的な資産運用や管理のアドバイスを行っており、退職後の金融資産や不動産の活用に悩む高齢者にはうってつけの金融機関といえると思います。

 例えば不動産に関しては、今後、相続税の増税が予想される中、その対応策についてアドバイスさせていただいています。また、近年は、郊外の家から利便性の高いマンションへの住み替えや、専門施設への入居をお考えの方も増えています。こうした不動産物件の仲介や遊休地の有効活用などについてもお役に立てると思っています。さらに、遺言信託や遺産整理を使った相続への備えまで、専門知識を生かして幅広いサービスを提供しています。また、お客様の状況に応じて機関投資家の運用ノウハウを個人のお客様に提供するラップ口座「プライベートアカウント」も取り扱いを始めました。

 法人のお客様に対しては、証券代行業務や、資産運用管理業務など各種サービスを整え、ファンドマネジャーやポートフォリオマネジャーなど高度な専門知識を持ったスタッフがコンサルティングを行い、ノウハウを提供しています。

──人材育成については、どのようなことを心がけていますか。

 高齢化社会に向けて、信託銀行に対する期待はますます高まっています。その担い手としての責任については、社長就任時から社員に高い水準を求めています。信託銀行には、「委託者であるお客様の意思を、第三者である受益者につなぐ役割を、時間を超えて果たす」という責任、すなわち「受託者責任」があります。例えば、遺言信託では、お客様はご自身の財産の管理・分配を信託銀行へ託します。社員には、信託の原点に立ち返り、「受託者責任の徹底」を呼びかけています。他人から信頼を得るためには、まず、自己を律することが大切です。
  社会人として周囲から尊敬される人になるために、また利他心を持ち行動できる集団になるために、社内の制度も、前例にとらわれずに変更するなど、各種改善に力を入れています。

──今後の展望について。

 安倍政権のもとで日本経済再生に向けた成長戦略が検討されていますが、当社も日本を代表する信託銀行として、世の中の動きを敏感に感じ、成長戦略に資する新商品・新サービスを、義務感をもって社会に提供していきたいと思います。
  持続的成長のために海外展開も進めていきます。幸いにも資本の安定が強みであり、1,500億円程度の投資余力を海外投資に向けることができます。海外運用機関との提携を通じた国内向け海外運用商品ラインアップの拡充や、海外現地のお客様への運用商品の提供など、受託財産運用・管理業務の海外展開により、多様化する国内外のお客様のグローバル運用管理ニーズにお応えしていきます。

 私は、ニューヨークとロンドン勤務を経験しました。通算12年間にわたる海外勤務で実感したのは、資産運用会社の資産は、一にも二にも「人」だということです。海外では、資本提携した後に、敏腕ファンドマネジャーたちがごそっと抜けて抜け殻のようになってしまうというリスクもあります。提携にあたっては、トップ同士が胸襟を開いてコミュニケーションすることが何より大切で、「Win−Win」の関係を築ける会社と手を組んでいきたいと考えています。

 また、孫への教育資金贈与について、今後1,500万円までの非課税枠が新設される見込みですが、これに関連した商品開発も急ピッチで進めています。期待してお待ちいただきたいですね。

 

──愛読書は。

 『木のいのち木のこころ〈天・地・人〉』です。法隆寺宮大工の棟梁(とうりょう)で、薬師寺金堂や西塔の再建にもあたった西岡常一さんと、お弟子さんの小川三夫さんの生き様を聞き書きで著した本です。仕事に対する真摯(しんし)な姿勢、弟子の育て方、棟梁としての身の処し方など、経営者として学ぶことが多くありました。自分の部下が支店長になった際、「毎朝の朝礼で社員に訓示を与えなければならないが、話題を探すのが大変」と言うので、この本を勧めたところ、あとで「とても役に立っている」と言ってくれました。何度も読み返している人生のバイブルです。

若林辰雄(わかばやし・たつお)

三菱UFJ信託銀行 取締役社長

1952年広島県生まれ。77年一橋大学法学部卒。同年三菱信託銀行(現・三菱UFJ信託銀行)入社。84年から90年ニューヨーク、97年から03年ロンドン勤務。99年三菱トラストインターナショナル社長。09年専務取締役。12年4月から現職。

※朝日新聞に連載している、企業・団体等のリーダーにおすすめの本を聞く広告特集「リーダーたちの本棚」に、若林辰雄さんが登場しました。(全国版掲載。各本社版で、日付が異なる場合があります)

広告特集「リーダーたちの本棚」Vol.48(2013年3月11日付朝刊 東京本社版)