オフィルビル事業、住宅事業、商業施設事業、ソリューション事業、投資マネジメント事業、リゾート事業、シニアライフ事業、海外事業など、多岐にわたるビジネスを展開する東急不動産。最近の事業トピックスや、今後の方向性について、取締役社長の金指潔さんに聞いた。
──業界を取り巻く環境と、それにどのように対応していますか。
震災の影響もあって厳しい状況が続いていますが、追加金融緩和政策の前倒しもあり、穏やかな回復傾向も見られます。とはいえ、世界経済の減速などにより、依然として先行きは不透明です。今後は消費税増税や政治の動向などにも注意を払い、敏感に対応していかなければならないと思っています。
社会の動きは常に変化し、ロングレンジで見ていく必要があります。その一方で変わらないものがあります。「お客様に喜んでいただける商品やサービスを提供する」という事業ポリシーです。「お客様目線」を最優先し、ニーズの把握に努めることが何より重要だと考えています。
──「お客様目線」の徹底とニーズの把握のために、社員の方々にはどのような指導をしていますか。
ことあるごとに「論を起こせ」と言っています。いろいろな人に会って知識を吸収し、自らも情報を発信し、アイデアを磨いていくことが大事だと。特に社外の人と交流するように強く勧めています。そのきっかけを作るのも私の役目。社員には私の、社長という「機能」を利用してほしいと思っています。異業種の親しい経営者に頼んで、先方の若い社員と当社の若い社員が交流する会をセッティングすることもあります。社内の人間関係だけでは得られない刺激をもらい、現業に応用できないかと知恵を絞ったり、自らそうした機会を作るようになってほしいと思っています。
──今年4月に「東急プラザ表参道原宿」が開業したのに加え、銀座TSビル(旧銀座東芝ビル)の建て替えプロジェクトが始まっています。
現在の「東急プラザ表参道原宿」の土地は2006年、銀座TSビル(旧銀座東芝ビル)の土地は07年に取得しました。その後リーマンショックという大きな逆風もありましたが、街の要となる場所にお客様に喜んでいただけるような環境を創ることこそ当社の社会的使命と考え、当初の計画を粛々と進めています。「東急プラザ表参道原宿」は、明治神宮の森や表参道のけやき並木に象徴される緑豊かな環境を建築デザインに取り込み、街行く人々の憩いの場となっています。銀座の物件は今夏から建て替えを開始し、16年に完成予定です。
「東急プラザ表参道原宿」や東急ハンズなどの商業施設は、当社グループにとって欠かせないファクターの一つになっています。世の中の動きに最も鋭敏に反応していかなければならない事業であり、お客様との接点が多い現場でもあります。商業施設で得られる情報やお客様のニーズを他の事業にも生かしていきたいと考えています。
──昨秋から今夏にかけて、建て替え前の銀座TSビルの一部を、東日本大震災の被災地の物産販売などが行えるスペース「東日本復興応援プロジェクト from 銀座」として開放されました。
そもそも私にとって東北はとてもゆかりのある地域です。東北には「気仙大工」で知られる気仙沼をはじめ、腕のいい大工さんが輩出する地があちこちにあって、関連会社の東急ホームにいたときに、東北出身の職人さんたちに多く出会いました。私は足しげく建設現場に通い、職人さんたちとお付き合いをしていたので、震災は他人事ではありませんでした。長期的な支援はもちろん大切ですが、「今できること」をまずやりたいと思い、気仙沼の知人を介して被災地の方々に提案させていただきました。
──「不動産の総合ディベロッパーから、生活総合サービスプロデューサーへ」を旗印にソリューションサービスの分野に活動領域を広げています。
マンション分譲業では、「ブランズ麻布狸穴町」や「ブランズ四番町」など、都心での目玉物件の販売を控えています。
新しい事業としては、昨年5月に東急スポーツオアシスが、業界初となるレッスンとステージが一つになった新しいダンススクール「THE☆STAGE」をオープンさせました。
シニアライフ事業としては、この11月、住宅型優良老人ホームの「グランクレールセンター南」で、多世代交流・地域交流の拠点となる、ユニバーサルデザインのインテリアカフェを開業しました。
──今後の抱負について。
少子高齢化、人口構造の変化、ライフスタイルや価値観の多様化など、私たちを取り巻く環境は日々変化し、社会は「成長」から「成熟」へ、「量の追求」から「質の追求」へと向かっています。そうした中、当社は昨年11月、将来の事業環境の変化を見据えた中期経営計画を策定しました。住まい、ビジネス、余暇など、多岐にわたる事業のバリューチェーンをより強化し、会社の垣根を越えてグループ一体となった取り組みを進めるため、事業構造の再構築をはかりました。そのイメージは、東急不動産を中心に据えたグループの輪ではなく、お客様を中心に据えたグループの輪です。「お客様目線」で物事を考え、既成概念にとらわれることなくチャレンジを続けることによって新しい価値を創っていきたいと考えています。
──経営信念は。
多少古臭いかもしれませんが、「志と覚悟」という言葉を大事にしています。私心や私欲なく、志と覚悟をもって、お客様や地域社会、ステークホルダーの皆様から信頼され、選ばれる企業集団を作り上げていきたいと思います。また、社員も一人ひとりが将来のために今何をすべきかをとことん考え、志と覚悟をもって行動に移してほしいと思っています。
──愛読書は。
毎年、芥川賞と直木賞の受賞作は必ず読むようにしています。近年では、西村賢太氏の『苦役列車』、田中慎弥氏の『共喰い』、鹿島田真希さんの『冥土めぐり』が印象に残っています。若い感性で書かれた小説を読み、一般常識やビジネス理論とは異なる考え方を補っています。
東急不動産 取締役社長
1945年生まれ。東京都出身。早稲田大学政治経済学部卒。68年東急不動産入社。86年東急ホーム取締役。98年東急不動産取締役。常務、専務を経て東急ホーム社長、東急アメニックス社長を歴任。2008年4月から現職。一般社団法人不動産協会副理事長、一般社団法人不動産証券化協会副会長。
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