時流を読み、ニーズをとらえ、独創的なサービスを提供

 「地球上で一番たくさんの“ありがとう”を集めるグループになろう」というスローガンを掲げ、「和民」「坐・和民」「わたみん家」など、国内640店舗以上の外食事業のほか、介護、高齢者向け宅配、農業、環境事業などを展開するワタミグループ。取締役会長の渡邉美樹さんに、各事業の展望を聞いた。

 

──外食事業の取り組みについて、聞かせてください。

ワタミ取締役会長 渡邊美樹氏 渡邊美樹氏

 外食産業は、国内においては、「好調」とまではいえないものの、堅調を維持しています。取り組みとしては、従来のように年間100を数えるほどの出店を目指すかといえば、飽和状態にある国内マーケットの中で、その必要性は感じていません。マーケットにおける最適なポジションと、地域に喜んでいただける役割を守っていくために、一つの街に複数店舗を構えるよりは、むしろ1店舗で勝負したほうがいい場合もあると思っています。一方、海外、中でもアジアのマーケットにおいては、外食産業のニーズが非常に高く、日本で磨いた質の高いサービスを武器に、出店を強化していきたいと考えています。

──今年は震災の影響もあり、外食産業は厳しい状況に置かれましたが、そうした中でもワタミグループは早い回復を見せました。背景には、どのようなことがあったと考えますか。

 有機野菜を使用した手づくりのおいしさなど、お客様が求めるブレのないQSC、すなわち、「品質(Quality)」「サービス(Service)」「清潔さ(Cleanliness)」を高いレベルで長く提供し続けてきたことが評価につながり、「ワタミの店だから安心」と、足を運んでくださったのではないかと考えています。これは非常にうれしいことで、今後もそうした価値を変わらず提供していきたいと思っています。

──高齢者向け事業が成長軌道に乗っています。有料老人ホームの入居率は9割を超え、ホームの新設も続いています。高齢化社会に向け、どのような価値を広めていきますか。

 日本の高齢化は今後も加速し、2020年代には高齢化率は30%に達する見込みで、経営者として、時代のニーズにこたえていくことが何より大切だと考えています。ワタミグループは、「地球上で一番たくさんの“ありがとう”を集めるグループになろう」というスローガンを掲げています。そして、どのような事業でも、不便を感じている人がいれば、そこに創意工夫を加え、挑戦し、「ワタミがその事業に参入してくれてよかった」と言っていただけることを目指しています。介護事業においては、「自分の両親にしてほしいと思うことをすべてさせていただこう」「自分の両親にしてほしいと思わないことは、絶対にするのはやめよう」「高齢者の方の笑顔を自らの喜びとして明るくのびのび働こう」を合言葉に、サービスとしての介護を意識しています。例えば、参入した2005年当時の介護の現場では、温かい食事を温かいうちに提供するという、当たり前のことすら実現できていませんでした。そうした中で新たな価値を提案し、高齢者やご家族のみなさんから、たくさんの“ありがとう”をいただける事業に成長しました。

 介護事業と並行して力を入れているのが、ワタミタクショクが展開する高齢者向け宅配事業です。ワタミタクショクでは、有機野菜を使い、専任の管理栄養士が塩分やカロリー、栄養バランスに配慮したおいしいお弁当やおそうざいを毎日手づくりし、高齢者のいるご家庭に手渡しを基本とした宅配ができる体制を整えています。500円の安いお弁当を提供する会社はたくさんありますが、こうしたきめ細やかなサービスが提供できるのはワタミタクショクだけだと自負しています。社会的使命も大きいと思っています。

──6月1日、岩手県陸前高田市の参与に就任されました。戸羽太市長から、復興のアドバイス、市職員への「民間ベンチャー意識」導入のためにと依頼されたそうですが、どのような活動を展開していく予定ですか。

 被災地でいちばん必要とされているのは、夢と希望だと思っています。そのために私ができることは、雇用創出支援です。被災地復興には、3つの要素が重要だと思っています。1つは、世界中に売れるものを作ること。陸前高田市では、しょうゆ、きのこ類、あわびなどが、強いブランドになると考えています。2つ目は、陸前高田市に人を呼ぶこと。陸前高田市は、世界遺産の中尊寺から車で50分の距離にあり、中尊寺観光のルートに組み込んでもらえるような買い物の場、グルメの場など、魅力的な訪問動機を作る必要があります。3つ目は、企業を呼ぶこと。企業誘致に関しては、国の施策がまったくできておらず、復興への思いを持った経営者が先頭に立って進めていかなければならない課題です。ワタミタクショクは、陸前高田市にコールセンターを建設中で、来年2月の稼働に向けて地元高校の卒業生など100人を雇う予定です。そうしたモデルを示すことで、他企業に関心を向けてもらいたいと考えています。雇用を生み出せる経営のノウハウも重要で、事業の成功を支えるため、私の経験や経営技術を伝える勉強会も開催しています。

──リーダーに必要な資質とは。

 リーダーは、「オレについてこい!」というタイプの人が向いていると思われがちですが、真に必要な資質は、夢に対する思いの強さ、周りが見えなくなるほど実現に向けて邁進(まいしん)できるエネルギーです。消極的な性格でも、夢をかなえようとする燃えるような情熱があるなら、リーダーになる資格は十分です。誰もがリーダーを目指すような社会になればいいなと思います。

──愛読書は。

 ここ10年で読んだ小説の中で最高のヒットは、『悼む人』です。親友の死にショックを受けた青年、静人が、人を悼む旅をする物語を軸に、末期がんの静人の母親や、人間不信の雑誌記者、夫を殺した女性などの人間模様が描かれていきます。たとえ悪評高い人物であっても、平等にその死と向き合い、「誰を愛し、誰に愛され、何をして人に感謝されたか」を探る静人の姿勢に感銘を受け、この3要素こそ、人生の本質ではないかと思いました。
 

渡邉美樹(わたなべ・みき)

ワタミ 取締役会長

1959年神奈川県生まれ。明治大学商学部卒業。財務や経理を習得するため、経理会社に半年間勤務後、1年間運送会社で働き資本金300万円をためる。84年ワタミ創業。00年東証一部上場。外食・介護・高齢者向け宅配・農業・環境メンテナンスなどの事業を展開。学校法人郁文館夢学園理事長。医療法人盈進会岸和田盈進会病院理事長。NPO法人「みんなの夢をかなえる会」理事長。公益財団法人「School Aid Japan(スクール・エイド・ジャパン)」代表理事。NPO法人「Return to Forest life(リターン・トゥ・フォレストライフ)」理事長。

※朝日新聞に連載している、企業・団体等のリーダーにおすすめの本を聞く広告特集「リーダーたちの本棚」に、渡邉美樹さんが登場しました。(全国版掲載。各本社版で、日付が異なる場合があります)

広告特集「リーダーたちの本棚」Vol.00(2011年12月26日付朝刊 東京本社版)