新しい価値を市場に持ち込み、産業構造の変化に立ち向かう

 今年4月、住宅設備最大手の住生活グループが、傘下のトステムやINAXなど5社を統合。新会社LIXILが誕生した。「新築の坪単価を3割上げればゼロエネルギーに近い住まいを提案できる」「ショールームに他社製品も並べて相互比較できるようにする」「単品商品の枠を超えて、新築でもリフォームでも住まい手の困りごとに広範にお応えできる総合ソリューションサービスを提供できるようにする」など、潮田洋一郎代表取締役会長が繰り出すのは、これまでにない革新的な発想の数々だ。

 

──5社統合の背景について聞かせてください。

LIXIL 代表取締役会長 潮田洋一郎さん 潮田洋一郎氏

 日本の住宅総数は5,800万を数えますが、1世帯あたりの住宅数は1.15戸と、すでに住宅ストックの増加は見込めず、住宅建て替えサイクルの長期化や少子高齢化なども背景にあって、新築需要は減少しています。一方でリフォーム需要は拡大しており、日本の住文化は大きな転換期を迎えています。合併には、オーバーラップする業務をスリム化して需給のバランスをはかるねらいもありますが、次に、新しい産業構造に対応できる体制を整えて成長を目指していくという前向きな展望があります。

──どのようなビジネスを展開していきますか。

 住宅は、およそ35の専門工事分野から成り立っていますが、これまでは35分の1の分野ごとでシェアをメーカー間で競ってきました。そうした過当競争は新しい産業構造の前には無意味で、むしろ35パーツを最適に組み合わせて提供するシステムづくりに力を入れるべきです。わかりやすい例では、商品をアピールするショールームも、自社商品だけでなく他社製品も含めさまざまな商品が一覧できる場所を提供していくべきだと考えます。消費者にとってワンストップですみ、間近で相互比較できる利便性は大きいと思いますので。具体的なソリューションでいえば、外気の影響を受けやすい窓にはトステムブランドの断熱内窓を提案し、西日が強い窓には川島織物セルコンの遮熱カーテンを提案する、といった具合です。

 坪単価を3割ほど上乗せすることで、最先端の技術を投入すれば、断熱、節電、発電など環境性能を備えたゼロエネルギーに近い家ができます。LIXILは、安全性能や環境性能において建材、設備、電器を一体としてとらえたソリューションを提供し、バリエーションは10通りにのぼります。そうしたサービスを展開できるのは日本で弊社だけです。新築戸数が3割減っても、付加価値をつけることで3割を補う利益を生むことができるわけで、そうした住まいの提案にも力を入れていきます。

──国内市場の成長戦略について、聞かせてください。

従来、リフォーム工事に必要な建築資材や住宅設備は、1現場当たりの使用量が少ないうえに納入を急ぐケースが多く、どうしてもコスト高になっていました。そこで、ワンストップで必要な資材や工具がほぼ全部そろうホームセンタースタイルの工事業者向け専門店「建デポ・プロ」を展開するなど、新しい流通の形を提案しています。

 省エネ住宅への取り組みもさらに進めていきます。先の主要国首脳会議(G8サミット)で菅直人首相が太陽光パネルを1千万戸に設置すると宣言しましたが、実現すれば20兆円規模のプロジェクトとなります。世界的に量産が進めば価格競争にさらされますが、当社の太陽光発電システム「LIXILエナジー」は、屋根への重量負担を最小限に抑える技術や品質管理の行き届いた施工体制など独自の強みがあり、生活者に貢献できると考えています。

──中国家電最大手のハイアールと提携するなど、海外進出にも積極的です。

 中国に限らず、新興国には建材産業の大手メーカーがとても少なく、そうした市場でヒット商品を生み出すことができれば、成長の余地は十分あると思っています。現地採用も含めて海外戦略に人材を投入し、市場調査や研究開発にあたっていきます。

──トップマネジメント層などさまざまな分野に専門性の高い人材を外部から登用しています。そのねらいは。

 LIXILの持ち株会社である住生活グループ、さらにその前身のトーヨーサッシは、M&Aにより会社を拡大してきました。私がトーヨーサッシに入社したのがちょうど会社が急速に拡大した時期で、創業者である父は、外部から多くの優れた人材を登用して異なる企業文化を束ね、節目を乗り切りました。いろんな意味で変革期を迎えている今、同じ効果を期待しています。

──愛読書を教えてください。

 キケローの『老年について』です。キケローには長く親しみ、大学時代にラテン語を学んだのはキケローを原書で読むためでした。老賢者の大カトーは、「あなたは老年を少しも苦にしていないが、大抵の老人にとって老年はいとわしく重荷だ」と言う若者に対し、「老年は思慮や見識で大事業をなしとげられる」「悪徳の最たる快楽を欲しいとも思わないことこそ快い」といったことを説きます。会社経営というのはどうしても効率が優先されますが、どこかで「それだけじゃない」という思いがあります。若さや生産性だけが価値ではないと。ですから経験の価値を認めるキケローの思想にとても共感します。シニアの励みとなる本ですが、若い方にもお薦めです。人生の各ステージで役割を変えながら社会にかかわっていくことの意味を見いだせるはずです。私もいずれは老年の域。老賢者になれないまでも、大カトーの心境に少しでも近づけたらいいなと思います。

潮田洋一郎(うしおだ・よういちろう)

LIXIL 代表取締役会長

1953年東京都生まれ。77年東京大学経済学部卒。同年トーヨーサッシ(現・住生活グループ)入社。79年シカゴ大学大学院経営学修士修得。80年取締役営業企画部長、84年常務取締役商品本部長、86年専務取締役広報・人事・業務改善・TQC・製造管掌、90年代表取締役副社長海外事業・デザイン総括管掌。91年ビバホーム代表取締役社長。92年トステム(同年トーヨーサッシより社名変更)代表取締役副社長、01年INAXトステム・ホールディングス(現・住生活グループ)取締役副社長、03年取締役、06年同社代表取締役会長兼CEO兼トステム(11年4月LIXILに社名変更)代表取締役会長。

※朝日新聞に連載している、企業・団体等のリーダーにおすすめの本を聞く広告特集「リーダーたちの本棚」に、潮田洋一郎さんが登場しました。(全国版掲載。各本社版で、日付が異なる場合があります)

広告特集「リーダーたちの本棚」Vol.27(2011年6月22日付朝刊 東京本社版)