「考動する関大人」を育てたい

 1886年の前身・関西法律学校の設立から今年で創立125周年。今日では学生数3万人、13学部12研究科と3つの専門職大学院をもつ国内屈指の総合大学へと成長した関西大学。昨年の2キャンパスの新設や、小中高の付属校の併設による一貫教育体制の確立など、改革の手綱をゆるめない上原洋允理事長に話を聞いた。

関西大学 上原洋允理事長 上原洋允理事長

――理事長に就任されたのは2008年。その年の7月に関西大学は長期ビジョン「KU Vision 2008-2017」を策定しました。

 長期ビジョンは10年後の関西大学のあり方を検討し、長期的目標の下に改革を推進するために策定したものです。その中で最上段に掲げたのが「社会を見つめ、変化に挑む。『考動』する関大人が世界を拓く。」という目指すべき方向性です。

 それを支える柱として、「躍動的な『知の循環』システムの構築」「「考動力」あふれる人材の育成拠点」「教育を支える『鍛えられた研究力』」「ソーシャル・ネットワークの拡充」「ゴーイング・コンサーン(永続的組織体)としての学園」の5項目を定めました。「考動」というのは、自らの頭でよく考え、自律的かつ積極的に行動することを意味する本学オリジナルの造語です。これからの大学は国際的な競争に勝たなければなりません。関西大学の使命は、失敗を恐れず新しい挑戦に取り組み、世界に羽ばたける人材の育成です。

――改革の具体的な形として昨年、人間健康学部を新設した堺キャンパスと、社会安全学部と大学院社会安全研究科などを新設した高槻ミューズキャンパスが誕生しました。

 人間健康学部は、健康を中心に福祉、スポーツの学究を深める学部。社会安全学部は、安全・安心をデザインできる社会貢献型の人材の育成を目指す学部で、共に今の社会がどのような人材を求めているかを見据えて設立した学部です。

 また国際化の拠点として、2012年4月に、関西大学南千里国際プラザを誕生させる予定です。ここには「留学生別科」や、外国人留学生のための宿舎などを設置し、異文化交流を推進していきます。

――これからの課題は。

 厳しい経済情勢の中で、就職活動が長期化、早期化し、3年生の秋頃から学生たちは動かなくてはならない現実があります。採用選考時期の是正に個々の企業の自主性に頼るのは難しく、政府や業界に教育界からも一層の働きかけをしなければならない問題ですが、大学としても現実に対応しなくてはなりません。早めの進路指導や、教養課程の段階から専門課程を交えながら教育を行っていくなど、社会の要求に応える教育研究の工夫が必要だと思っています。

――愛読書を教えてください。

 戦後、私は高松から大阪に出て働いたのですが、その頃に読んだロマン・ローランの『ジャン・クリストフ』が好きです。特に印象的だったのは少年期から青年期の物語で、貧困の中にあった主人公に、どこか自分と似たものを感じていていました。
クリストフは行動力ある情熱家で、愛した女性との仲を引き裂かれるなどの苦境の中から何度も立ち上がります。階級社会の矛盾に抵抗して生きていく姿が非常に魅力的でした。また、彼は叔父のゴットフリードを信頼し、人生では己が能(あた)うことを着実に達成することが大切だということを教えられます。今の若い人たちにも読んでもらいたい名著です。

上原洋允(うえはら・よういん)

関西大学 理事長

1933年香川県生まれ。57年関西大学法学部卒。その後、大阪市立大学大学院法学研究科に進み、58年司法試験合格。61年から弁護士事務所を開業し、戦後の農地解放で土地を買収された旧地主が国や知事、旧小作農を訴えた訴訟で、被告人側代理人を長く手がけ、小作農解放に貢献した。95年大阪弁護士会会長、近畿弁護士会連合会理事長、日本弁護士連合会副会長。2004~2006年関西大学大学院法務研究科(法科大学院)特別顧問教授。学校法人関西大学常務理事、専務理事を経て、08年より現職。

※朝日新聞に連載している、企業・団体等のリーダーにおすすめの本を聞く広告特集「リーダーたちの本棚」に、上原洋允さんが登場しました。(全国版掲載。各本社版で、日付が異なる場合があります)

広告特集「リーダーたちの本棚」Vol.25(2011年4月27日付朝刊 東京本社版)