明るく元気な「いい会社づくり」を通じて、郵政改革の実現を図る

 2007年10月、全国に根付く“郵便局”のユニバーサルな地域密着力と、市場競争で磨かれるサービス向上の融合という国民の期待を背負ってスタートした、かんぽ生命。「経営の自由化が完全に行われる将来に向け、今は原点に立ち戻り、サービスの心と社員の力を磨きたい」と山下泉さんは語る。

かんぽ生命 山下泉氏 山下泉氏

――日本郵政公社から日本郵政株式会社へ、また5分社化など、郵政民営化には様々な経緯がありましたが、現状をどう認識していますか。

 当社の平成21年度末の保有契約件数は4,465万件と、過去10年で5割強まで減少しています(平成11年度は8,102万件)。保険料収入も13.5兆円から7.5兆円と大きく減少。他生保の合計がほぼ横ばいであることを見れば、少子高齢化などの市場環境の変化に対応したサービスの改善が不十分と、言わざるをえません。これは当社が経営の自由度において大きな制限が課されていることが、主な原因です。

 ただ、これは自分たちの努力だけでは解決できない問題です。社員には「私たちは何のために、今、この仕事をしているのか、ミッションは何か」という、いわば原点に立ち返って考えようと呼びかけています。社内では管理職が若手社員と自由に話しあう「オフサイトミーティング」を開いていて、私や進藤丈介会長も2カ月に3回ぐらいの割合で出席していますが、モラールの高い優秀な社員がたくさんいると実感しています。これまで大きな制度改革が数年おきにあり、その対応に追われてきた結果、長期的な視野で人材の潜在力を磨くことがなかなかできませんでした。日本郵政公社の初代総裁の生田正治氏は「郵政3事業はサービス業」「目前の改革はもとより大事だが、ヒューマンリソースの開発こそが、郵政事業の底力」だと語りかけました。それは今日もこれからも変わらないと思います。

――リーダーとして、どのような企業を目指していますか。

 当社は、3年半前に民営・分社化で誕生した「95年の伝統を誇る、ある意味でのベンチャー企業」だと思っています。日本郵政グループの一角を占める世界最大の規模を持つ生命保険会社として、「最も身近で、最も信頼される保険会社」を目指すのが、私たちの目標です。そのためには、まずお客様に対するサービスの一層の向上が必要であり、そしてまた社員にとっても「いい会社」でなければ、永続的な発展はできません。

 私は郵政の改革なしに、日本経済の再生はないと考えています。お客さまサービスの向上を通じて、経営基盤を確かなものにし、全国の郵便局ネットワークを通じたユニバーサルサービスの確保を図る。140年変わらないそのミッションを果たしていくために、大きな環境変化に対応して変えるべき点を変えていくということが基本となります。そして、とにかく社員が明るく、元気な会社、風通しの良い「いい会社」をつくりあげていくことが、非常に重要なことだと考えています。

――愛読書を教えてください。

 当社は、郵政改革の途上にある民営化会社ですので、制度の基本的な枠組み自体が政治の動向で変わる可能性があるというユニークな特徴を持っています。こうした私たちにとって参考になり、かつ広く多くの方に読むことをお薦めできる本として、伊那食品工業会長の塚越寬さんの『いい会社をつくりましょう』と、『不機嫌な職場』(高橋克徳、河合太介、永田稔、渡部幹・著)を挙げます。特に私が心に残っているのは、『いい会社をつくりましょう』の冒頭にある、百年カレンダーのエピソード、「しょせん人生二万日」という語りかけです。20歳の方が80 歳まで生きるとして、約2万2千日。だからこそ、一日一日を大切に懸命に生きたいものです。

 それとこれは雑誌なのですが、私がもっとも熱心に愛読している『致知』(致知出版社)という月刊誌をご紹介します。本誌は、人間力を高めることを志にした雑誌で、様々な場で社会に貢献している方々の活躍を、いつも学ばせていただき、大きなエネルギーをもらっています。

山下 泉(やました・いずみ)

かんぽ生命 取締役兼代表執行役社長

1971年7月、日本銀行入行。松本支店長などを経て、95年12月、同ロンドン駐在参事、98年4月、同金融市場局長。2002年2月、日本銀行を退社し、アクセンチュア株式会社金融サービス業本部金融営業本部長。03年4月、日本郵政公社常務理事。以降、専務執行役員、総裁代理執行役員などを経て、07年10月、株式会社かんぽ生命保険 取締役兼代表執行役社長。

※朝日新聞に連載している、企業・団体等のリーダーにおすすめの本を聞く広告特集「リーダーたちの本棚」に、山下泉さんが登場しました。(全国版掲載。各本社版で、日付が異なる場合があります)

広告特集「リーダーたちの本棚」Vol.24(2011年3月9日付朝刊 東京本社版)