固定的な経営哲学にとらわれない、それが私の哲学。

 「長期的なテーマは確実にアジア・フォーカス」という言葉通り、2009年6月の社長就任以来、新興国関連の商品を積極的に新規設定。今年に入ってからは新興国の成長の恩恵を受ける先進国銘柄に投資するファンドや、エネルギー関連など国内の新産業に着目したファンドなど、個人投資家の選択肢を広げるDIAMアセットマネジメント。中島敬雄社長に話を聞いた。

DIAMアセットマネジメント 中島敬雄社長 中島敬雄氏

――興銀、みずほコーポレート銀行で長くマーケットの仕事に携われました。個人投資家とより密接にかかわる資産運用会社の役割をどのように感じますか。

 資本主義のスタイルは大きく変化し、個人や企業がステークホルダーとして市場に間接的にかかわる時代から、投資家としてより直接的にかかわる時代への転換が進んでいます。日本は欧米に比べればその変化スピードがまだ遅いですが、身近な例でいえば企業年金の運用や、個人が投資信託の形で企業の株を持つといったことです。
 株の持ち合い的な旧来構造が崩れた中で、「お金」のあり方に求められているのは、公共性や透明度の高さです。その中で私たち資産運用会社が、どういったサービスを提供していくか。これはグローバル社会において、世界的に問われているテーマです。当社は発足以来、「FOR THE CUSTOMER」という理念を掲げていますが、どのような選択においてもグローバリズムが大前提となった今、それは次の資本主義の時代を作るぐらいの高い志を持たなければ、実現できないことだと思います。

――コミュニケーションネームとして長く使われてきた「DIAM」を冠した現社名となったのは2008年。社長に就任してからは、レガシーを超えたニューコンセプトの資産運用会社であることをアピールされています。

 銀行と生保が半分ずつ出資して生まれた当社の独自性は変わらない強みですが、今後はDIAMというブランドとして、お客様に信頼される存在になりたいと思っています。お客様には世界の動きをよく見ていただきたいし、チャンスとリスクを見極めながら、大切な資産を育てていただきたい。ただ一方で、個人投資家の方たちがマーケットを一日中見ているわけにはいきません。お客様の資産をお預かりする資産運用会社として、「安心」をどう形にし、それを広く社会に伝えればいいのかを、社員一人ひとりが考え現実の中で実践することが重要です。

――大変な読書量だと聞いていますが、中でも愛読書があれば教えてください。

 マーケットというのは森羅万象がかかわる世界ですから、あらゆるジャンルの本を読むのが仕事の一部のようなものです。仕事として本を読むのは好きではないのですが、資本主義と金融が発達した近世以降の歴史を題材にした本を読むことが多いですね。

 一冊を挙げるなら、勝海舟の『氷川清話』。勝の晩年の談話集です。維新そして江戸遷都という大事業をやってのけたのは、結局勝だと私は思います。リーダーというのは偉そうなことを言っても結局みんなに飯を食わせなくてはいけない。はいつくばってでも世を渡っていかけなくてはいけないものです。勝はそれをやり遂げました。その勝だからこそ、江戸前の威勢でぽんと発する一言に重みを感じます。例えば「世間は生きている、理屈は死んでいる」「主義に固定するな」「肝心なのは才気より胆力」。特に私が好きなのは、勝が繰り返し語る「実際家たれ」という言葉です。時代の変革に立ち向かうには、頭で考えるだけの評論家でも、そつなく物事をこなす実務家でもいけない。厳しい現実を直視し、逆風に向かっていく。それが実際家です。

文/松身 茂 撮影/星野 章

中島敬雄(なかじま・のりお)

DIAMアセットマネジメント 代表取締役社長

1970年3月、一橋大学商学部卒。同年4月、日本興業銀行入行。1998年11月ハーバード・ビジネス・スクール(AMP修了)。1999年6月、同行執行役員。2000年3月、常務執行役員市場ユニット長。2002年4月に3行統合により、みずほコーポレート銀行常務執行役員就任。主にグローバルマーケットを担当。2009年6月からDIAMアセットマネジメント 代表取締役社長。

※朝日新聞に連載している、企業・団体等のリーダーにおすすめの本を聞く広告特集「リーダーたちの本棚」に、中島敬雄さんが登場しました。(全国版掲載。各本社版で、日付が異なる場合があります)

広告特集「リーダーたちの本棚」Vol.17(2010年8月26日付朝刊 東京本社版)