宣教師の両親と共に少女時代を日本で過ごし、後年、縁あって宣教師として、また教員として関西学院に赴任。2007年、院長に就任したルース・M・グルーベルさんは、「知識として世界を知るだけでなく、他人の喜びや痛みを自分のこととして考えられる『世界市民』を育てたい」と語る。
――関西学院は創立120余年の歴史を誇る伝統校ですが、女性の院長は初めてだそうですね。
選挙によって院長に選ばれた時は、ただ驚き、自分が何をすればいいかも分からないような状態でした。最近はいろいろな分野で仕事をする女性が増えていますし、男性の生き方も多様化しています。関西学院では多様な文化や宗教、経験や才能を持つ人びとが共に生きる生き方を養うことを目指しています。私が院長になることで、教育の場のダイバーシティーや国際化ということを改めて考えるひとつのきっかけになれば、と思いました。
もちろんすでに関西学院には外国人の教員はたくさんいますし、国際的なキャンパスとしても環境が整っています。それをもっと上手く社会に伝えて、世界に向けて歓迎的な姿勢を見せられる学院にしたいと思っています。
――創立120周年を迎えた2009年、以後10年間の学院の教育のあり方を示した「新基本構想」を定め、併せてその到達目標として、6つのビジョンを設定しました。
関西学院は、2009年に「新基本構想」でキリスト教主義に基づく学びと探究の共同体として、創造的かつ有能な世界市民を育むという「ミッションステートメント」を定め、“Mastery for Service”(奉仕のための練達)というスクールモットーが現代において持つ意味を改めて確認しました。
6つのビジョンというのは、「卒業生が備えるべき知識・能力(KG学士力)の高い質の保証」「関学らしい研究で世界的拠点となる」「多文化が共生する国際性豊かなキャンパスを実現する」「地域・産業界・国際社会との連携を強化する」「一貫教育と総合学園構想を推進する」、そして「進化を加速させるマネジメントを確立する」ことです。これらを具体的な方策として達成することによって、学院の社会における存在価値を高めていきたいと思っています。
関西学院で学ぶ学生たちには、ミッションステートメントに示した「思いやりと高潔さ」をもってほしいと思います。悲しい事件が起こる時代ですが、私たちは一人の人間として、責任をもって他者との関係をつくるべきだと思います。互いに学び合う中で、相手のことを相手の立場から考える力を養ってほしいというのが大きな願い。自分の側だけから物事を考えるのではなく、自分が今していることが相手に、そして地球の反対側にいる人たちにどういった影響を与えるかを考えられる人になってほしいと思います。
――愛読書をご紹介ください。
子供の頃は『赤毛のアン』が大好きで、たくましく生きるアンの姿に勇気をもらいましたし、父の影響で読み始めた『レ・ミゼラブル』で描かれたジャン・バルジャンの人生には感銘を受けました。結婚後、子供を育てながら大学院で政治学を専攻し、その時トーマス・クーンの『科学革命の構造』に出会いました。学問の発展ということを考える時、私は今でもこの本に戻ってきます。私の専門とは異なる自然科学についての本ですが、分野を超えて参考になります。
また、ベティ・フリーダンの『新しい女性の創造』は、主婦や母としてだけではなく、一人の人間として社会に貢献できることはないかと感じていた若い頃に、刺激を受けた本です。今の日本にも、同じ思いをもつ女性が多くいらっしゃると思います。そしてもう一冊は、 Jennifer Chanの『Another Japan Is Possible』。これは労働運動、平和活動、HIVやジェンダーの問題など、さまざまな市民運動に取り組む日本のNGO・NPOの活動がインタビュー形式で紹介されている本です。日本ではあらゆる分野で国際的なNGOやNPOが設立されています。地域の中で重要な市民活動をされている方たちが大勢いることを、海外や日本の方たちにもっと知ってほしいと思います。
文/松身 茂 撮影/長尾純之助
関西学院 第15代院長
1950年アメリカ・ミネソタ州生まれ。74年米国インディアナ大学ココモ校卒業、86年ネブラスカ大学リンカーン校政治学大学院修了(政治学博士号取得)。ウィスコンシン大学ホワイトウォーター校教授を経て、96年に関西学院宣教師、関西学院大学社会学部助教授に就任、98年から教授(現在まで)。2007年4月に関西学院院長に就任。キリスト教主義に基づき、幼稚園から大学院までの教育を統括する。
※朝日新聞に連載している、企業・団体等のリーダーにおすすめの本を聞く広告特集「リーダーたちの本棚」に、ルース・M・グルーベルさんが登場しました。(全国版掲載。各本社版で、日付が異なる場合があります)