革新的新薬で、グローバルな成長をめざす

 2002年、スイスの製薬企業ロシュ社との戦略的アライアンスを組み、ロシュ・グループのグローバル医薬品事業における日本の拠点へと大きく舵(かじ)を切った永山治社長。1980年代より培ってきたバイオ技術・抗体創薬基盤をさらに強化し、この分野において世界をリードするロシュ・グループの一角を形成している。医薬業界変革のリーダーは、「これからの日本は、世界と連携しながら独自性を生かすサバイブを考えなくては」と語る。
 

永山 治さん 永山 治氏
――ロシュ・グループにおける中外製薬の役割を、どうとらえていますか。
 我々が取り組んでいるライフサイエンスは、国境のない分野です。世界の疾病(しっぺい)構造が共通化した今日では、克服すべき課題の共有に拍車がかかっています。
また医学は多分に経験学的な側面がある分野です。バイオテクノロジーが新薬開発の主力技術となった今日、日本の研究蓄積の中だけでの開発では限界があります。グローバルベースで各グループ企業がもつ技術や情報を生かし、独自性を確保しながら連携する。それこそ我々が世界に貢献できる道だと思います。

 ――抗がん剤をはじめとするがん領域市場では、国内トップのシェアを保持しています。さらに今後の進むべき道は。
 高血圧などのいわゆる生活習慣病的な病気の治療薬は、完成度が高まっており、これからの開発は、免疫、がん、ウイルスが中心になるといわれています。新薬メーカーは、まだ薬剤の貢献度が低く、治療の充足度も低い疾患分野で新薬を創出していくことが必要です。これまで以上に研究者のもつアイデアを製品開発に繋(つな)げる仕掛けをうまく構築できれば、我々が世界への発信源になることができると思っています。

――愛読書を紹介してください。
私の人生でもっとも大切な一冊であり、今も折々にページを開いているのは福沢諭吉の『学問のすゝめ』です。私は慶應出身ですから、自然と福沢諭吉の教えに対して関心を抱いてきました。しかしこれは母校愛から言うのではなく、福沢諭吉の教えは今も非常に新鮮で、今の企業経営や政治経済の指針につながるものだと思います。
例えば福沢諭吉は独立自尊ということを言っていますが、これは国民一人ひとりが自分で考え、自分の意見を言い、責任を持ち実行するということに通じます。官に頼らず、民の力で国を引っ張っていくというのは、今日の日本でも大きなテーマです。
利益の創出が企業の使命である一方で、ビジネスには原則論や社会とのバランスが大切だと思います。そして過度に政治に頼らないということも、健全な成長には大事なことでしょう。私たちの規範となりうるものは、歴史を超えて読み継がれた本の中にいくつもあると思います。
 

文/松身 茂 撮影/星野 章

永山 治(ながやま・おさむ)

中外製薬 代表取締役社長

1947年生まれ。慶應義塾大学商学部卒業後、1971年日本長期信用銀行に入行。1978年中外製薬に入社。その後、開発企画本部副本部長、常務取締役、代表取締役副社長などを経て、1992年より現職。

※朝日新聞に連載している、企業・団体等のリーダーにおすすめの本を聞く広告特集「リーダーたちの本棚」に、永山治さんが登場しました。(全国版掲載。各本社版で、日付が異なる場合があります)

広告特集「リーダーたちの本棚」Vol.4(2009年6月8日付朝刊 東京本社版)