お客様の不満や不安と向き合い 信頼関係を強く継続的なものに

 防腐剤や肌トラブルの原因となる成分を一切使用しない無添加化粧品や、高品質で低価格のサプリメント、そして発芽米などの食生活を通じた健康への新しい提案。社会の不安、不満、不便といった「不の解消」を企業理念に掲げ、美と健康の領域で事業を開拓し続けるファンケル。今年6月に4代目社長に就任した成松義文氏は、「ファンケルの強みであるお客様とのきずなをより確かなものにしたい」と語る。

ファンケル 代表取締役社長執行役員 成松義文さん 成松義文氏

── 新リーダーとして、事業をとりまく現状をどうご覧になっていますか。

 いま私が社長に就任してラッキーだと思っていることの一つは、我々が創業以来こだわり続けている「無添加」への海外での関心の高まりです。現在、ファンケルの無添加化粧品は、世界的な化粧品専門店「セフォラ」でも高い評価を得て、既存店の売り上げも好調に推移しています。当社製品の高い安全性や品質はアジア市場でも成長の推進力になっていますし、欧米の老舗(しにせ)化粧品ブランドも無添加化粧品を無視できなくなっています。

 ひるがえって国内市場を見ると、無添加の良さをお客様に伝えきれていないという反省があります。そのメリットを徹底的にお知らせするため、まず店舗のあり方を変え、カウンセリングの体制を強化しました。つまり、お客様の肌の状態をお聞きし、それに合わせアドバイスをする中で、真の意味で肌を美しくできる無添加のよさを知っていただこうと考えています。

── もうひとつの核であるサプリメント事業は、成松社長が立ち上げたそうですね。

 サプリメントは栄養のバランスをとる、あるいは健康のために予防的に利用するものとして世間に認知されるものになりました。しかし一方、サプリメントは薬事法によって効果効能をうたうことができず、商品の定義付け、表示のルール作りといった面で欧米や中国に大きく遅れています。そのようなお客様の不都合を解消するためには、「この会社の製品なら、間違いなく長く付き合える」といった安心感を提供することがより重要になっています。今後はサプリメントを通じてお客様の身体全体を総合的にケアできる、ホームドクターのような継続的なお付き合いをしていける体制を作っていきたいと思っています。

── 今年6月から取り組まれている「ファンケルECOプラン」では、事業分野のみならず、社員の家庭でも電気とガスの使用削減を呼びかけ、報奨金制度も導入しました。

 大事なのは環境問題を自分のこととして受け止め、行動するということです。この取り組みは社員の自主参加制ですが、実は役員は目標を達成しない場合、報酬が一部カットになります。我が家でもこの暑い中、私がエアコンの温度を上げると最初は妻や娘が少し不満そうだったのですが、理由を話すと分かってもらえ、協力態勢ができました。おそらく当社の社員の家庭でも同じだと思います。社員一人ひとりが環境問題を自分の身体で体感することで、企業の取り組みがより意味のあるものになると思います。

──社長として今後の抱負をお聞かせ下さい。

 企業規模よりも成長性と収益性を追っていきます。私が入社した時は、売り上げ百億円程度の会社でしたが、創業者の強い思いと先見もあり、当時から経営多角化のための事業部がありました。そこではあらゆることが研究の対象で、例えばおしゃれがしたくてもサイズの合う服がない大きな方のためのアパレル事業をおこそうとか、事業の卵がたくさん転がっていました。今でもファンケルの根底にあるのは、そんなベンチャー精神だと私は思います。お客様の不の解消のためなら、当社の事業領域である「美と健康」からはみ出してもいい。そのぐらいの気概で、経営に夢とロマンを持ち続けたいと思います。

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 休日はジムやプールに通い、身体を動かして過ごす。「色が黒いのもゴルフではなくて、テニス焼けなんです」。昔は深酒にマージャン、遊び尽くしたと笑う。「やはり企業は、リーダーが心身共にしっかりしていないと」。58歳。

略歴
1974年4月
蛇の目ミシン工業 入社
1993年1月
ファンケル 入社
1999年6月
執行役員フード事業部長
2000年6月
取締役店舗販売事業部長
2002年6月
常務取締役第二営業本部長兼第二営業本部化粧品事業部長
2004年6月
取締役常務執行役員営業統括兼第一営業本部長兼カスタマーリレーション本部長
2005年3月
取締役兼ファンケル美健代表取締役社長兼ニコスター代表取締役社長
2007年4月
取締役専務執行役員管理・研究統括
2007年12月
取締役専務執行役員管理・研究統括兼健康食品カンパニー長
2008年6月
代表取締役社長執行役員

撮影/星野 章
(『広告月報』2008年10月号)