創業のベンチャー精神を受け継ぎ 逆風の中にチャンスを見いだす

 格安航空券の販売で旅行業界に風穴を開け、個人自由旅行という新たな市場を創造したエイチ・アイ・エス。業界の風雲児からリーディングカンパニーへと成長した同社に、今年4月、40歳のトップが誕生した。若い挑戦心と実行力を期待され、「第二の創業」の舵(かじ)取りを託された平林朗新社長は、「環境が激変している今こそチャレンジするチャンス」だと語る。

エイチ・アイ・エス 代表取締役社長平林 朗さん 平林 朗氏

──航空機燃料の高止まりや景気の減速など、海外旅行市場は逆風の中にあります。

 エイチ・アイ・エスは、本来逆境の中で生まれたベンチャー企業です。市場環境は厳しくはありますが、逆によい時というのは、お客様が新しいものを受け入れにくいもの。お客様の支持を得られるサービスが提供できれば、いまは当社にとって有利な状況に変えやすい時といえます。

 例えば、当社への信頼の高まりや即時の手配力を背景に、法人営業が伸びてきました。また、官庁関係からは格安航空券を敬遠される面もありましたが、今のような景気が続けばコスト削減が求められるのは業界を問いません。我々にとってそれは追い風になります。

── 旅行、あるいは海外そのものに若者の関心が薄らいでいるという声もありますが。

 今の20代前半の方は、中学時代にあたる2001年に9・11テロ事件があり、その翌年にはSARS騒動、そしてイラク戦争と続き、海外旅行には危険が伴うというイメージが刷り込まれています。危険な場所もありますが、すべてがそうだと思いこんでしまわれているのはメディアの影響も大きく、マスコミにはバランスがとれた報道を望みたいところです。

 また、今は旅の目的が癒(いや)しと食事とショッピングが主体になっていることにも懸念を持っています。そればかりを追求すると、どこにいくことも同じ目的になってしまうでしょう。本来、海外旅行の大きな魅力は異文化体験であり、特に若い人に望むのは、文化や歴史の違いに触れ、自己啓発や人格形成の糧にしていただくことです。自分の目で世界を知り、文化の違いに肌で触れる経験をもつ人が多いというのは、将来的にはその国の国力にも反映するものです。国全体の方針として若者層の海外旅行に対する関心を浮揚させる必要があると思います。

── 社長ご就任と同時に「いい旅研究室」を設置され、旅行代金に燃油サーチャージを加えた総額表示など、新しい試みを積極的に打ち出されています。

 総額表示に改めた理由は明解で、お客様が旅行に行きたいという時、知りたいのは「総額でいくらかかるか」です。旅行業にはプロダクトアウトな傾向があり、十年前と現在のハワイのパンフレットを見比べてみても、ほとんど変化がありません。自由旅行と並ぶ当社の大きな柱となったパッケージツアーに、お客様のニーズをしっかり反映できるよう、商品開発のあり方を根本的に見直していきます。

── ネット専業業者や航空会社の正規割引航空券の台頭など新しい市場変化の中で、どのように戦っていきますか。

 当社は急成長を持続してきましたが、それは既存の旅行代理店のお客様を取り込んだのではなく、新規マーケットを開拓し、学生さんが初めて海外旅行する時に使っていただけたからでした。競合を意識するのではなく、新しい市場を開拓する精神は今後も変わりません。特に、旅行市場が成熟した今後は、成長著しい中国やアジアからの旅行者を日本へ受け入れる現地法人に大きな可能性があります。既存のビジネスモデルが通用しない現地に飛び込み、お客様のニーズをとらえながら確固たる関係を築いていくというのは、当社が受け継ぐベンチャー精神が生かされる領域だと思います。

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 学生時代には世界を放浪した平林社長。遊びは何にでも手を出したが、これひとつという趣味はないという。「長続きしないのは、驚きがないと楽しく感じない性格だからでしょう」。若い社員たちにも、いい意味で無駄な時間を持ち、人生の幅を広げてもらいたいと語る。40歳。

略歴
1993年9月
エイチ・アイ・エス 入社
2002年4月
関東営業本部 本部長代理
2004年4月
関東営業本部長
2005年11月
関西営業本部長
2007年1月
取締役関西営業本部長
2007年4月
取締役情報システム本部長
2008年4月
代表取締役社長

撮影/星野 章
(『広告月報』2008年09月号)