ユニクロの広告キャンペーンを手がける、電通のシニア・クリエーティブディレクター、沢田耕一さん。ユニクロの広告制作の背景やクリエーティブに関する考え方などについて話を聞いた。
――ユニクロの広告はいつから手がけていますか。
2008年の年末、クリスマスのキャンペーン広告のCM制作から携わっています。
――沢田さん以外にもユニクロの広告制作に携わるクリエーティブディレクターやアートディレクターが何人かいるそうですね。
ユニクロの場合、とにかく広告の数が多いんです。フリース、ダウン、ニット、ヒートテックなど商品がたくさんありますからね。それらをすべて一人で手がけることは物理的に難しい。そこで、それぞれの広告の表現に責任が持てるアートディレクター出身のクリエーティブディレクターを立てて、一緒に制作をしています。
――沢田さん自身の役割は。
広告する商品や内容が決まったら、まず企画を考えます。それをもとにアートディレクターやコピーライターなどとともに方向性やトーンなどについて話し合い、企画を練り上げていきます。それをどのように表現するかが重要で、最終的なグラフィックのイメージとコンセプトが合っているか、逆算もしながら考えていきます。
――クライアントとはどのような関係を築いていますか。
ユニクロ側の窓口となるのは、グローバルコミュニケーション部。スタッフの方々とは、毎日のように打ち合わせをしています。今や一蓮托生(いちれんたくしょう)のような関係です。より良い広告となるようアドバイスももらいますし、柳井正さん(ファーストリテイリング代表取締役会長兼社長)の今の考えを教えてもらったり、商材についての詳しい情報などを用意してもらったり。グローバルコミュニケーション部の方には本当に助けられています。
――プレゼンテーションは沢田さん自らが行うのですか。
いくつもの案件がありますが、柳井さんに対するスピーカーは基本的には僕です。プレゼンテーションをするからには、どの案件も企画からアウトプットまで全体を把握していなければ説明ができません。柳井さんはもちろん、みなさん本気で仕事をしていますから、少しでも手抜きなんてしたら、すぐばれてしまうと思います。
――具体的に企画はどのように立てていくのでしょう。
ユニクロが目指す大きな戦略があります。日本にとどまらず世界の人々に良い服をもたらすために、「服を変え、常識を変え、世界を変えていく」という戦略に沿ってどのような戦術を組めばいいかを考えます。戦術を考える上で特に重要なことは、ユニクロという企業の「オリジナリティー」を表現することです。これはユニクロの仕事に限ったことではありません。広告制作において考えるべきことだと思います。
――企業の戦略を広告で表現することは、決して簡単なことではないですよね。極意や秘策などはありますか。
いやいや、こつなどないです。ユニクロの場合、私が必ずしていることは、とにかく作られた商品を知ることです。その服が開発された理由から布地、色、デザインについてなど詳しく教えていただきます。広告をする商品のユニクロらしさを自らが実感するのです。
企業の望みとしては唯一無二のプロダクトを開発して、お客様に共感してもらうこと。商品開発は情熱を持って必死で行い、投資もしている。なぜこの企業がその商品を開発するのか、理由をひもといていけば広告すべきことが抽出されるはずです。
分からないことは聞けばいいんです。ホンダのオデッセイの広告を制作したときも開発担当者から「カッコイイ車を目指して作った」という話を聞きました。ミニバンの中でカッコイイ存在であれば、選ばれる車になるはずだと。その想(おも)いを聞いて「だったら、カッコイイ男の人が乗っていたらより伝わるんじゃないか」と、ジョージ・クルーニーのキャスティングにつながりました。
――2009年12月には、創業60周年を記念したユニクロの日替わりセールの小型広告が、社会面に31日間連続で掲載されましたね。
そのアイデアは社長の柳井さんから出されたものです。もともとユニクロにとって新聞は大事な広告メディアのひとつだと考えられています。日本中にいるお客様に対して、たとえば、限定価格での販売を開始する当日の朝、必要な情報と商品のイメージを一緒に表現することができます。テレビCMでは新聞ほどタイムリーに伝えることは難しいし、インターネットだけでは網羅しきれません。
――ユニクロのパリ旗艦店がオープンするときの広告は3ページ連続での掲載でした。新聞広告のスペースまで提案することもありますか。
そのほうが魅力的で効果的だと思えば、広告スペースを含めた提案をします。オデッセイでページ送りの広告を作ったときも、ジョージ・クルーニーとクルマをそれぞれ別々に見せたほうが絶対にカッコイイと思ってプレゼンしました。
2009年9月26日朝刊 (全30段+全15段)
――「このほうがいい」と言い切ることは難しいですよね。自信が持てず、言いたくても言えない人は多いと思います。なにかアドバイスがあればお願いします。
『素人のように考え、玄人として実行する』金出武雄著(PHP文庫)の中に、「アイデアは自由でなければならない。その自由を妨害するのは知っている心。実行するために必要な経験や知識は、ときに発想を拒む要因にもなる。アイデアを考えるときは、素人のように夢や希望だけを持つ。そしてプロとして実行して『一流』に仕上げよう」という内容のものがあります。アイデアは自由、仕上がりはプロ。聞くと簡単そうなんですが、実際にはとても難しいことです。これほどアイデアと制作について分かりやすく解説されている言葉はなく、心に残っています。
――沢田さん自身、新聞広告をどう見ていますか。
個人的には期待して見ています。広告として伝えるニュースがあり、それが広告となるのが理想ですね。また、新聞広告は1日限りのもの。もっとラジカルでパンクな表現があってもいいのかもしれませんね。これって朝日新聞!? なんて驚いちゃうような(笑い)。広告だからできることは意外とたくさんあると思います。
――印象に残っている新聞広告はありますか。
大貫卓也さんが手がけた、としまえん「史上最低の遊園地。」です。エープリルフールという日にち限定で、楽しいことがいっぱいの遊園地だからこそできる広告。ただおもしろいだけでなく、非常にスマートですよね。新聞というメディアの特性を生かしているし、本当にすごいと思います。
――最近、楽しいこと、興味のあることはなんでしょう。
仕事は基本的に楽しんでいます。忙しいですけど辛(つら)くはないですね。それ以外だと……。あ、実は最近、家を建てたんですよ。家具は一通りそろったので、今はカーペットや小物など部屋を飾りつけるアイテムを探しています。妻と一緒にインテリアショップを見て歩いたり、雑誌を見たりしているときが、いちばん楽しいです。
――最後にこれからの夢や、やってみたいことがあれば教えてください。
「いいよね」と思えることを発信できる制作者でありたいと思っています。たとえば、サラリーマンが通勤途中にふと「なんか最近、いい感じになってきたよね」と実感できるようなものをつくりたい。それが何かは分からないんですけど。もしかしたら広告の何かかもしれないし、プロダクトかもしれない。公園や空間的な何かかもしれない。発展して便利になることだけがよかったのかどうか、という話があるように世の中の人が「このくらいが、いい具合ですね」と言える感じは、いったいどういうものなのか、じっくりと考えてみたいです。
沢田耕一さんの手帳!
電通の社員手帳、その名も「Dennote(デンノート)」。毎年カバーの色が変わり、今年は赤。中面は1週間の見開きタイプで、後半には社員手帳ならでは、企業理念のページもあります。
「特に工夫した使い方とかしていないんですけど。使い慣れているので、今年も使っています。わりとみんな使っているようですよ」(沢田さん)
ちなみに贈答や販売などはしていないそうです。
大阪生まれ。武蔵野美術大学卒業後、1984年に電通入社。現在、コミュニケーション・デザイン・センター勤務。最近の仕事に、HONDAのオデッセイ、薬のCONTACのキャラクターデザインとCM、ユニクロの広告全般など。カンヌ国際広告祭(ゴールド)、D&AD(シルバー)、ロンドン国際広告賞(ゴールド)、日本パッケージデザイン大賞(特別賞)、グッドデザイン賞、ACC賞(ゴールド)、東京ADC賞、毎日広告デザイン賞(グランプリ)など受賞多数。
※新聞広告を手がけるクリエーターにインタビューする、朝日新聞夕刊連載の広告特集「新聞広告仕事人」に、沢田耕一さんが登場しました。(全国版掲載。各本社版で、日付が異なる場合があります)