消費者の安心、安全を守りながらトクホや機能性表示食品の認知啓発を進める

 消費者の健康意識の高まりとともに注目が集まる特定保健用食品や機能性表示食品は、どのような経緯で生まれたのか。早くから健康食品の安全性の認定を手がけてきた日本健康・栄養食品協会事務局長の青山充氏に、現状や課題などについて話を聞いた。

コスト削減と時間短縮をねらい生まれた 「機能性表示食品」

──協会について教えてください。

青山 充氏青山 充氏

 世の中に健康食品が普及してきた昭和40年代、粗悪品や健康被害が問題になり、国会でも取り上げられました。そこで、ある一定基準を満たしたものには認証マークをつけるなどして消費者が選べるようにしようと、当時の厚生省が中心となって組織を立ち上げ、活動を始めました。それが当協会の前身で、現在は公益財団法人として、認定健康食品(JHFA)マーク表示許可制度などの運営と、特定保健用食品(トクホ)や栄養機能食品、機能性表示食品の普及啓発に取り組んでいます。

 食品にはエネルギー源やおいしさといった1次、2次機能以外に、体調を調節する3次機能があり、時代と共に注目が集まるようにりました。そして生まれたのがトクホです。臨床治験などを通して有効性や安全性の根拠を示し、国に審査、許可されます。しかし多くの時間とコストがかかるため大企業が中心の取り組みになっているのが現状で、許可が下りないなどのリスクもあります。そこで当協会が中心となって、事前の書類審査や学術アドバイザーを紹介し、消費者庁から差し戻された場合はその意図を「通訳」するなどして事業者をサポートし、トクホを育ててきました。

──2015年、「機能性表示食品」制度が始まりました。

 トクホ以外の健康食品は、どこの部位にどんな効果があるのかをうたうことは薬事法で禁じられているため、かえって消費者にとってわかりにくいという状況があったようです。具体的に表示できないので、「すっきり」「スムーズ」といった抽象的な表現が多く使われますが、例えば「すっきり」は目覚めがすっきりなのか残尿感が解消してすっきりなのか、わかりにくい。一方で事業者は、広告の写真や映像で暗にどこに効くのかを表現していますが、誤解を招く危険性がある。表示上、薬事法に触れないのであれば、ある程度の表現を認めてもよいのではという議論もあり、「機能性表示食品」制度が生まれました。

 国が許可するトクホに対し、機能性表示食品は消費者庁への届け出制で、受理された60日後には発売できるため、コスト削減と時間短縮が実現するという想定でした。しかし実際は、届け出から受理までに90日ほどかかり、不備があるなどで戻された場合、再度書類をそろえて行列の最後尾に並び直さなければなりません。これでは事業者は販売計画が立てにくい。そこで、なるべく一度の届け出で受理されるデータをそろえるなど、協会で加盟事業者のサポートを始めました。何が不備で戻されるのかといった情報や知見が集積されてきたため、現在、協会では届け出のための手引書の作成を進めています。その手引書を参考にすることで、ケアレスミスなどが減るのでは、と期待しています。

出典:消費者庁 機能性表示食品に関するパンフレット「食品関連事業者の方へ『機能性表示食品』制度がはじまります!」

出典:消費者庁 機能性表示食品に関するパンフレット
「食品関連事業者の方へ『機能性表示食品』制度がはじまります!」

求められるのは消費者のヘルスリテラシー

──制度スタートから1年半余りが経ちました。

多岐にわたる「トクホ」多岐にわたる「トクホ」

 加工食品やサプリメントから農産物まで、様々な機能性表示食品が出てきており、裾野は広がったと見ています。しかしその分、制度に対する理解度が業者ごとにまちまちで、消費者庁も玉石混交の届け出をさばききれず、時間がかかってしまっているようです。機能性表示食品は事後チェックが制度化されているのですが、事業者任せにするのか、行政の予算でやるのか、あるいは当協会のような組織が担当するのかについては、今後考えていくべき課題です。

 事業者の広告や広報もあり、少しずつ機能性表示食品への理解は進みつつあると思います。しかし、トクホとの違いなどは、まだまだ正確に伝わっていないように感じます。事業者がメディアを活用して発信するのはもちろん、メディアが記事や広告を通じ正しい情報を提供することで、怪しいものや危険なものが整理されるようになることを期待しています。

──事業者、消費者は今後、機能性をうたう食品とどう向き合うべきでしょうか?

 事業者はこれまで先を競って商品を出してきましたが、事後チェック制度を理解し、届け出た成分がきちんと入っているか、製造工程に問題がないかなどを自分たちで調査、公表する仕組みが必要です。さらに当協会は、事業者がチェックしたものを再チェックし、「お墨付き」を付与して消費者が安心して選べるような仕組み作りを進めていく考えです。

 また、健康食品に関する助言ができる「食品保健指導士」の養成事業を手がけ、薬剤師や栄養士、事業者のお客様相談室担当など、現在1,200人ほどがこの資格を取得しています。日本の保健医療において一番大切なことは「ヘルスリテラシー」。消費者一人ひとりが自分に必要なものを選び、最適な医療機関を受診する能力を持つことが理想です。消費者には、身近な薬局などで薬や健康食品について知識のある有資格者と相談しながら、自分に合ったものを賢く選ぶ習慣づけをしてほしいと考えています。

青山 充(あおやま・みつる)

日本健康・栄養食品協会事務局長

1973年茨城県庁に入庁後、健康危機管理対策室長、保健福祉部保健予防課長、保健福祉部次長を歴任。11年6月より日本健康・栄養食品協会事務局長。特別用途食品制度に関する検討会(消費者庁)委員及び次世代ヘルスケア産業協議会新事業創出WG委員なども務める。薬剤師。