共働きが標準スタイルになった今、女子生徒やその親が大学教育へ期待することは変わってきているという。積極的なキャリア教育と手厚いキャリア支援で女子大トップの就職率を7年連続で達成している昭和女子大学の理事長・総長の坂東眞理子さんに、今「女子教育」に求められることは何かを聞いた。
21世紀型の生き方へシフトした女性の意識
──少子化やグローバル化が急速に進む時代の中、女子高校生や親の意識に変化を感じますか。
私が昭和女子大学へ来たのはもう10年以上前ですが、その頃は「20世紀型の女性の生き方」というか、「大学を出たら少し働いて、いい人と巡り合って結婚。その後は家庭に入って温かい家庭をつくりたい」と話す学生がかなりいました。ところが、今ではほとんどの学生が「21世紀型の女性の生き方」へとシフト、「女性も卒業したら仕事をするのは当然。ずっと働き続けることのできる仕事に就きたい」と考えています。親御さんも「娘にはちゃんと一人で生きていく力をつけてほしい」と願っている方が多いようですね。特にご自身の反省を踏まえてそう考える、お母さん方はとても多いと感じます。私としてはもう一歩進んで「働き続けた結果、リーダーシップを発揮できるポジションに就きたい」と考える学生が増えてほしいのですが、まだそこまではいっていないのが現状。日本の女子教育の今後の課題だと思っています。
──共学志向が強くなっていると言われますが、女子大学の存在意義をどのようにお考えですか。
幸か不幸か、日本の社会には女性だから乗り越えなければならない課題がまだまだ山積しています。働く女性の人生にはどんな課題が待ち受けているのか、またその課題にどう立ち向かえばよいのかをより具体的に教えることができるのは女子学生に特化した女子大です。そして、女性たちに人生をく力をつけることが、現代の女子大が担うべき役割になってきています。そのことを生徒はもちろん、結婚前の花嫁修業的な位置付けだった、かつての女子大のイメージをお持ちの親御さんにも知っていただきたいです。
キャリア教育によって育む社会で活躍するための力
2017年8月18日付 朝刊667KB
──女子大学の中でもトップの就職率を誇る昭和女子大学ですが、どのような取り組みをしてきたのでしょうか。
本学では1年生からキャリア教育をスタートします。私たちが目指すキャリア教育の目的は、なかなか自分に自信の持てない学生たちに小さな成功体験を重ねさせることで自分の強みを発見してもらい、それを伸ばすことで自信を持たせることです。さまざまな取り組みがありますが、特に評価されているのが「社会人メンター制度」。30~50代を中心とした社会人女性に登録していただき、学生たちが卒業後のキャリアプランやライフスタイルについて直接相談できるという仕組みです。母親でもなく教師でもない、第三者の働く女性に接することで、学生たちはよりリアルな目標を持てているようです。さらに学内にキャリア支援センターを設立し、そのスタッフと教員たちが連携して学生一人ひとりをサポートするなど、地道できめ細かい取り組みの結果が「実質就職率95.5%」という高い数字に結びついたと思っています。
──これからの時代、女性が社会で活躍するためにはどのような力が必要だと考えますか。
社会で必要とされる人材になるには、まず第一に専門的な能力や知識が必要です。特に女性が活躍するためには欠かせません。本学の強みはグローバル人材の育成です。ボストンにある海外キャンパスへの留学をはじめ、国際感覚を身につけられる制度が充実しています。ただし、肝心なのは英語を話せることではなく、英語でコミュニケーションがとれること。コミュニケーション力などの人間力も、社会を支えられる女性になるためには必須だと思います。
大学が生き残るための方策はそれぞれの特徴を追究すること
──2018年は18歳で大学へ入学する人数が減少に転じる節目の年を迎えます。
日本には現在、国公私立合わせて700以上もの大学が存在しています。その中で生き残っていくためには、それぞれの大学が持っているそれぞれの特徴を追究すべきだと思います。親御さんたちの世代までは「学校歴」が物を言う時代でしたが、これからは入った大学で何を学んだのか、どんな力を獲得したのか、ということが評価される「学習歴」の時代になってきます。受験する大学を選ぶときには教育内容の情報の収集がより大事になってきますし、大学側でもしっかり広報していく必要があるのではないでしょうか。
──大学情報を広く発信していくためには、どのようなメディアを活用するのがよいと考えますか。
可能な限りメディアやイベントでの情報発信に努めていますが、生徒たちにじっくり考える材料を提供するという意味では、新聞広告は有効だと思います。それに新聞読者には親の世代だけでなく祖父母世代の方々が多い点も見逃せません。祖父母が学費のスポンサーという生徒も増えていますから。あとは、実際の学生たちがどんなキャンパスライフを送っているのかを知ってもらうこと。実は学生こそが最大の広報媒体だと思っています。「大学の選択に親が口出しするなんて」と批判する人もいるようですが、世代が異なり社会人としての経験を持つ親御さんたちが収集する情報には、生徒が収集する情報とは違った視点があると思います。是非、お子さんと一緒に情報収集していただきたいですね。
昭和女子大学 理事長・総長
1946年富山県生まれ。東京大学卒業後の69年に総理府(現内閣府)に入省。統計局消費統計課長、埼玉県副知事、内閣府男女共同参画局長などを務める。2004年、昭和女子大学女性文化研究所長(現在に至る)、07年同大学長、16年から現職。プライベートでは24歳で結婚。2児の母としてキャリアと子育てを両立してきた。300万部を超えるベストセラーとなった『女性の品格』(PHP新書)他、著書多数。