継続的に協力関係を築き 最高の瞬間を表現に落とし込む

 アスリートなどの快挙を貴重な写真や情報とともにいち早く伝えることに成功している企業は、ふだんからどのような取り組みをしているのか? セレブレーションアドを展開する意義とは? 広告主に提案活動を行う実務者の視点で、電通第7ビジネスプロデュース局の小原知博氏が語ってくれた。

関心が集まるピークをねらい お祝いニュースを届ける

小原知博氏 小原知博氏

──セレブレーションアド(お祝い・受賞広告)の特性について、どのように考えますか。

 スポーツ選手などのポジティブなイメージに依拠して商品や企業をアピールする手法は以前からありますが、大きなスポーツイベントにおける優勝や、権威ある賞の受賞を祝福する広告には、ニュースとしての価値が加わります。また、応援したファンたちとお祝いメッセージを共有することで、協賛活動への理解が深まることも期待できる。このような特性に注目している企業は少なくないと思います。

──セレブレーションアドを展開する上での留意点は。

 関心が集まるピークをねらうことが重要ですが、一時の盛り上がりに便乗するだけでは、共感どころか反感を買うリスクさえあります。きちんと共感を得ている企業は、協賛先とともに商品開発を進めるなど、本業でも協力関係を築いているケースが多く見られます。そうした絆があると、それが祝賀機会での迅速な広告制作につながり、協賛の権利元からアプルーバルに通せる可能性も出てきます。信頼関係をベースにした企業また商品と選手との近しい関係があればこそ、ここぞの機会に、意外性とインパクトのある発信が可能となるのだと思います。

──継続的に支援し、信頼関係を築くことが重要であると。

「ブリヂストンゴルフツアーBJGR 片岡大育選手優勝」の雑誌広告 「ブリヂストンゴルフツアーBJGR 片岡大育選手優勝」の雑誌広告
2017年10月『週刊ゴルフダイジェスト』他0.4MB

 そうです。私が担当しているブリヂストンは、タイヤやゴルフギアといった自社製品の開発に契約アスリートの意見を取り入れ、品質向上に役立てています。こうした協力関係のもとで実現した受賞とお祝い広告は、技術力のアピールにもなる。また同社は、アイスホッケーの女子日本代表「スマイルジャパン」を長く応援しています。北海道や東北など冬が厳しい地域に在住選手やファンが多い競技なので、主力商品であるスタッドレスタイヤとの親和性が高いのです。平昌五輪では惜しくも上位入賞を果たせませんでしたが、同社は今も変わらず支援を続けています。

報道に近い臨場感や作り込んだ世界観は新聞で

──制作上の難しさはどんなところにありますか。

 優勝や受賞から日を開けずに展開したい場合、クリエーティブにかける時間がどうしても短くなってしまいます。事前にコピーやデザインを固めて写真を入れるだけにしておくこともできますが、スポーツや勝負の世界は、往々にして予想外のドラマが起きます。しかも多くの視聴者がそのドラマを目の当たりにしている。となると、事前に用意したクリエーティブで果たして人の心を打てるのか。やはりライブの興奮を落とし込みたいところです。アスリートの熱烈なファンなら、「事前に用意されていた原稿だな」「あの勝負をこんなコピーで表現してほしくない」「あの選手らしい表情を載せているな」などと細かくチェックするでしょう。最近はSNS上でファン同士が一体感を持つことが多いので、広告への好感が飛躍的に広がる可能性がある一方で、「炎上」を招く可能性もある。そこが人気者を起用する怖さであり、コントロールが難しいところです。

──自社商品の受賞広告も増えています。

 受賞広告は、ともすると手前味噌(みそ)的な印象を与えかねないので、余分な修飾をせず、性能や技術について真摯(しんし)に伝えるクリエーティブが多い印象があります。そうした誠実な姿勢や、受賞が証明する品質は、購入を迷っている人の背中を押す材料になります。また、すでに商品を購入している人の満足感にもつながると思います。

──セレブレーションアドの新聞展開についてはどう考えますか。

「2017 AUTOBACS SUPER GT GT500クラスブリヂストンタイヤ装着チーム優勝」の新聞広告 「2017 AUTOBACS SUPER GT
GT500クラスブリヂストンタイヤ装着チーム優勝」の新聞広告
2017年11月17日付
東京中日スポーツ他0.4MB

 これもクリエーティブがポイントになると思います。速報性はネットにかないませんが、報道に近い臨場感や、作り込んだ世界観は、新聞だから実現できることです。また、BtoB企業にとっては、一般消費者と接点を持つ格好の機会となります。マスメディアの大きな特徴は、興味がなくても偶発的に目に入ることで、そういう意味では取引先やインナーへの訴求効果も期待できるのではと思います。

──広告主に提案する上で、試みてみたいことは。

 単純に「おめでとう」と花束を贈るだけでなく、選手の成長の軌跡や競技の歴史など、「ビハインド・ザ・シーン」を明らかにしていくような仕掛けがあると、より深いコミュニケーションにつながっていくのではないかと思います。どんな方法があるのか、知恵を絞っていきたいですね。

──新聞メディアに期待することは。

 詳報性やニュース性に優れていることはもちろんですが、新聞に載ることでその話題の「格」が上がるといった側面も見逃せません。企業にとって顧客や取引先などと「新聞に載っていましたね」といった話題を共有できることも大事です。実務面では、例えば、スポーツ面の対向面のように接触率も高く人気の面に掲載し、話題を挽起することでクリエーティブの幅もより広がります。また、優勝の翌日や翌々日に出稿というタイトなスケジュールの場合、入稿から印刷までの時間をどれだけ短縮できるかによって、クリエーティブワークにかけられる時間が変わってきます。再来年には東京オリンピック・パラリンピックというビッグイベントが控えていますし、広告主やファンの期待にこたえられるような企画をメディアと一緒に考えていけたらと思います。

小原知博(おはら・ともひろ)

電通 第7ビジネスプロデュース局 シニア・マネージャー

2005年電通入社。以来、外資系保険会社、不動産仲介会社、製薬会社、航空会社、外食チェーンなどを担当。営業を中心にマーケティング戦略、広告クリエイティブ、キャンペーンプランニングに携わる。