電通ではSDGsに関するさまざまな取り組みを、全社的におこなっている。 2018年6月に開催されたカンヌライオンズのSDGsのゴールについて競うハッカソン「Change for Good」では、フィリピンと東京が合同で参加した電通のチームが優勝した。電通の明石英子氏と木下浩二氏には、電通社内でのSDGsに関する活動について、濱田 彩氏にはカンヌライオンズのハッカソン「Change for Good」の内容について聞いた。
─── SDGsを推進するプロジェクト「team SDGs」を立ち上げられました。その経緯と活動内容について教えてください。
明石氏: 課題を解決することが仕事である広告会社として、SDGsについてクライアントから質問されたときに答えられる専門チームが必要だと考え、全社的なプロジェクトとして始動することが決まりました。社内にはCSRや社会貢献部などの担当部署や、NPOと付き合いのある部署などもあります。各部署の専門知識を持つ人たちが集まり「team SDGs」を結成。人数は30名ほどです。
弊社は持続可能な社会の実現に向けて活動しているグローバル・コンパクト・ネットワーク・ジャパンの会員でもあるので、その分科会に参加してさまざまな企業の課題を聞いたり、営業経由でクライアントがどんなことに課題を感じているかヒアリングをしたり、まずインプットに時間を費やしました。
木下氏: 収集した情報をシェアするために、2017年5月と10月には社員向けに、12月にはクライアント向けに社内でセミナーを開催。同年11月には、国連広報センターとSDGsの啓発活動なども精力的におこなっているレスリー・キーさんにお声掛けして、撮影イベントやトークセッションも実施。社内での機運を高めていくきっかけになりました。
──「 SDGsに関する生活者調査」や「コミュニケーションガイド」を作成しました。
明石氏: 社内やクライアントに向けてSDGsを浸透させ、SDGs関連のビジネス開発に役立てていくために情報提供は必要です。調査はいろいろな企業や団体が行っていますが、広告会社としても現状を知り、生活者の意識がどう変化していくか把握していくべきだろうと考えました。
また、コミュニケーションガイドはとても反響が大きく、様々なクライアントから営業経由で、表現に関する相談や、もう少し詳しいデータがほしい、といったリクエストをいただいています。今後、ますますSDGsコミュニケーションが盛んになってくると思われるので、このガイドの必要性も増すのではないかと思っています。
──2016年に開催されたカンヌライオンズ国際クリエイティビティ・フェスティバル(以下、カンヌライオンズ)において、SDGsをサポートする広告キャンペーン「Common Ground」を展開しました。
木下氏: 電通を含む世界の大手広告6グループが連携してSDGsの達成など特定のテーマで協力していくことを宣言しました。私たち電通グループはゴール3「すべての人に健康と福祉を」が割り当てられ、マラリアや結核などグローバルな感染症対策に専門で取り組むNGOを支援しています。カンヌライオンズに集まって来る広告業界の人たちにSDGsの知見を高めてもらえるように、2017年と2018年のカンヌライオンズでは、啓発活動の一環としてパーティーやシンポジウムなども開催しました。
──2018年のカンヌライオンズで初めて開催した、1から6までのSDGsのゴールについて競うハッカソン「Change for Good」では、東京とフィリピンの電通チームが優勝しました。内容について教えてください。
濱田氏: 電通フィリピンのメンバーと、テクノロジストとアートディレクター、コピーライターの5編成のチームで参加しました。東京の電通からは私一人です。ミッションは、グローバルシチズンという人権問題に取り組むNGO団体の課題を1から6までのSDGsのゴールに当てはめ、アマゾンのスマートスピーカー「アレクサ」で解決すること。私たちのチームが選んだのは、ゴール5「ジェンダー平等を実現しよう」でした。
男女平等という壮大なテーマを自分事化するためにはどうしたらいいか考えていたとき、「夜道を女性が一人出歩くことは、世界どこでも怖い」という話になりました。そこで、フィリピンや日本をはじめ、世界で実際にあった事件件数などのデータを探すと、どこの国でも路上でセクハラのような事件は起きていることが分かりました。
ゴール5には具体的に9項目あり、その中に「暴力をなくす」というカテゴリーがあります。それを「どうやったら路上での暴力をなくせるか」と言い換え、アレクサで解決する方法を検討しました。
競合となるサービスには、事前登録した家族や親友などに「これから帰る」というサインを送ってモニターするアプリなど、様々なものがあります。ただ、遅い時間にサインを送ると相手に負担がかかってしまう。それこそAIがやるべきだと考え、「世界初のAIボディーガード」というアイデアが生まれました。「アレクサ、一緒に帰ろう(walk with me)」と話しかけると、現在地を記録しながら家に着くまでアレクサが会話をしてくれる。そんなボディーガードのようなアプリの開発です。もし、アレクサの応答に何秒以上反応がない、また万が一身に危険が及んだら、スマートフォンに内蔵の二つのカメラで同時に録画も開始。それを証拠映像として、事前に登録している連絡先と警察に同時送信されるという仕組みも考えました。
特に評価されたのは、男女平等の枠を超えるアイデアだったことです。調べていく中で、夜道を怖いと思うのは女性だけに限らないことが分かりました。男性やLGBTの方が襲われることもあるし、子供の誘拐事件もある。当初は「アレクサは女性の守り人」という位置付けでしたが、「アレクサは全ての人の守り人」というサービスになるとプレゼンしました。
優勝したら18カ月以内に納品することがルールなので、今は具体的にアマゾンと実現に向けて詰めていて、フィリピンで発売することが決まっています。アレクサは日本語も対応しているので、いずれは日本でも商品化できたらいいなと考えています。
SDGsの17のゴールは途上国特有の問題だと思われがちですが、解釈の仕方によってはどの国でも当てはまる普遍的な課題。その解決方法を考えるときは、各ゴールの中にある細分化された項目に着目し、整理して向き合っていく必要があると思います。