2021年1月から「大学入学共通テスト」が実施されるなど、今、大学入試は大きく変化している。それは社会の変化に応じて、大学自体が変わっていることの表れでもある。そのような状況の中、生徒や保護者の意識はどのように変化しているのか。大学や教育産業は、どのようなコミュニケーション活動を行うべきなのか。朝日新聞社とのタイアップサイト「変わる教育 変わる大学入試」を運営する、河合塾の企画マーケティング部部長 寺田泰浩氏に聞いた。
大きく変容する 大学入試で問われる力 今必要とされる正しい情報
──今、大学入試が大きく変わりつつあります。その背景について聞かせてください。
現在の大学入試改革は、これからの社会で必要とされる力を教育現場で養うべく、日本の教育全体を変えていこうとの国の方針に基づく大きな流れの一貫です。これからの時代は先が読めず、答えのない複雑な課題が山積しています。そのような課題を、様々な分野の多様な人たちと協力しながら、解決していく力が何より求められています。大学の教育現場も文理融合を進めるなど、そのような人材を育てる方向へシフトしています。
──大学入試が変化しているのもそのためですね。
はい。ですから個別の大学入試の詳細は公表されていなくても、その方向性は明確です。国公立大学でも私立大学でも、思考力や判断力、表現力といった力が求められます。これまでの入試では「知識・技能」が大きなウエートを占めていましたが、これからは「思考力・判断力・表現力」「主体性・多様性・協働性」といったものを含めバランスよく身につけていることが、問われるようになるのです。
──とはいえ大学入試改革に対して、不安を感じている生徒や保護者も多いのではないでしょうか。
そうなのです。河合塾が中学1年生から高校2年生とその保護者を対象に実施したアンケート結果を見ても、7割以上の人が不安を感じています。生徒で多かったのが「漠然とした不安」、保護者で多かったのが「十分な情報収集や対策ができているか」でした。志望する大学に合格する上で、正しい情報に基づく対策は不可欠です。私どもが朝日新聞社とのタイアップサイト「変わる教育 変わる大学入試」を始めたのも、何より受験生に正しい情報を発信しなくてはならないと考えたからです。
──「変わる教育 変わる大学入試」に対する、社内外の反響はいかがですか。
このサイトの記事を小冊子にまとめて高校に配布したところ、教員の方々からも、大変喜んでもらえました。大学入試改革に関する情報は断片的なものが多く、これを読めば概要がわかる、といったものがないからです。大学入試改革については、高校の先生も分からない点が多く、正しい情報を求めていることがよく分かりました。今後も高校生や保護者、教員に役立つ情報を、このサイトを通じてしっかり提供していきたいと考えています。
大学と高校生・保護者を結ぶコミュニケーションで、独自性の発信を
──入試とともに大学自体も変わり、多様化している中、大学選びにおける学生や保護者の意識に変化はありますか。
今は昔より、自分が本当にやりたいこと、自分が心から価値を感じることを重視する若者が増えています。そのため大学選びにおいても、偏差値や知名度だけにとらわれず、自分が真に学びたいことを学べる学校を選ぶ受験生が増えています。また、海外の大学を目指す生徒も増えており、進路選択の幅は広がり、多様化しています。一方で保護者はまだまだ従来の価値観で大学を見ている方が多い印象を受けます。保護者の意向が志望校選びに反映されることも多いので、現在の大学を巡る状況や社会との関係などについて、保護者の理解を広げることも重要だと思います。そういった意味では大学と高校生、保護者をつなぐコミュニケーション活動は、ますます重要になってきています。
──このような時代に、大学がコミュニケーション活動を行う上で、留意すべきことはどんなことでしょうか。
今やどのような大学でも、大学名を連呼するだけでは受験生は集まらない時代です。その大学に入れば自分はどんな体験ができ、どう変われるのか。どんな学生生活を送れるのか。そんな体験価値を、丁寧に伝える必要があると思います。そうしたニーズに応えるべく、朝日新聞社とZ会、河合塾とで開催している大学・学部選びのためのイベント「全国国公立・有名私大相談会」のような、 face-to-faceのコミュニケーションの場は非常に有効だと思います。
──18歳人口が減少していく中、いかに独自性を打ち出すかも重要ですね。
その点では、「うちの大学ではこのような入試を行う」といったことを、広告やコミュニケーション活動で訴求することも有効だと思います。昔から入試問題は、「うちの大学はこういう人に来て欲しい」という、大学から受験生へのメッセージだと言われています。東大や京大の理系学部の二次試験科目に国語が課されていることも、それぞれの大学が求める人材の資質を表しています。早稲田大学の政治経済学部が数学を必須とすることを決めたのも同様です。最近は図書館で調べてレポートを書くものや、グループディスカッションを取り入れたものなど、ユニークな入試を実施する大学も多く、それ自体がその大学の独自性になっています。
──河合塾のコミュニケーション活動の考え方についても聞かせてください。
2018年1月15日付 朝刊167KB
社会や大学の変化に応じて、予備校も当然、変わっていかなくてはなりません。今はICTやオンライン授業で、教室に来なくても学べる時代です。それでもわざわざ選んでいただける教育サービスをいかに提供するか、私どもも試行錯誤しています。コミュニケーション活動においても、河合塾へ来れば何を体験できるのか、といった体験価値を伝えていくことが大事だと考えています。
──最後に、新聞社の役割や機能についてのご意見を聞かせてください。
朝日新聞社とのタイアップサイト「変わる教育 変わる大学入試」を河合塾がオウンドメディアで展開しても、届く範囲はある程度限定されます。新聞社と組んだことで、私どもだけでは届けられない広い層に発信することができています。広報コミュニケーション活動では、紙とウェブ、オフライン、オンラインをクロスメディアで展開していくことで相乗効果を出すことが重要と考えています。朝日新聞社は教育分野との親和性が高く、デジタル メディアやリアルイベントも幅広く運営しています。そうした意味でも、新聞社の総合力は、受験生や保護者に体験価値や有益な情報を効率よく伝える上で、非常に有効だと思います。
学校法人 河合塾 進学教育事業本部 企画マーケティング部 部長
河合塾入塾後、幼児教育部門を皮切りに、進学教育事業部門のエリア企画管理業務に従事。その後、校舎運営として校舎長などを担当。2015年より更なるマーケティング機能の強化に向けて企画マーケティング部に所属し、18年より現職。高大接続改革や人口減少といった環境の変化に加え、デジタルシフトの時代の流れの中で、いかにお客様に選んでいただけるようにできるか、そのコミュニケーションのあり方を日々模索し続けている。