困難な状況における心のあり方を名著に学ぶ

2023年に創業100周年を迎えたキョーリン製薬グループ。「キョーリンは生命を慈しむ心を貫き、人々の健康に貢献する社会的使命を遂行します。」という企業理念のもと、医療用医薬品事業を始め、人々の健康に貢献するヘルスケア事業を展開している。代表取締役社長CEOの荻原豊氏に、経営の参考になった書と、趣味の世界で感銘を受けた書について伺った。

100冊のリストを少しずつ更新

荻原豊社長 荻原豊さん

 子どもの頃は江戸川乱歩の少年探偵シリーズなど推理ものに没頭しましたが、私の読書歴の大半は実用書です。物語や小説にはあまり惹かれず、プログラミングなど興味のある分野に役立つ本を読んできました。読書量が圧倒的に増えたのは社会人になってから。仕事や人づきあいにおいて自分に足りない部分があると感じることが多かったからです。そこで、アマゾンのビジネス書の売れ筋にランクインした本を1位から順に読んでいきました。その中から参考になった100冊をリストにし、今も少しずつ更新しています。社長に就任後はマンツーマンで社員にインタビューする時間を設けており、たまに「どんな本を読むといいでしょう」と聞かれることがあると、その人に合いそうな本を100冊から選り抜いて勧めています。
 何年も売れ続けている本はやはり名著が多く、その中でもサミュエル・スマイルズの『自助論』は心に残りました。ミケランジェロ、ニュートン、ナポレオンなど数百人にのぼる偉人の実例を挙げながら、自己実現において何が重要かを説いています。160年以上も昔の本なので引用された事例や人物は古いものの、困難な状況における心のあり方や対処の仕方は普遍的な内容で、読むとポジティブな気持ちになれます。ただ、勤勉や独立独歩といった〝 自助 〟が行き過ぎると、周囲の目には利己的に映る場合があります。そうした観点も併せ持ちながら読むと、より見えてくるものがある本だと思います。

新薬の創製が1丁目1番地 ゼロから1を生む

 「キョーリンは生命を慈しむ心を貫き、人々の健康に貢献する社会的使命を遂行します。」という企業理念のもと、2023年度より長期ビジョン「Vision110」をスタートしました。医療ニーズに応える価値の高い新薬を継続的に提供する新医薬品事業を中核に据え、健康関連事業を複合的に展開し、人々の健康に幅広く貢献する企業を目指しています。
 医療財政の逼迫に伴う度重なる政策変更など、医薬品業界を取り巻く環境は日々不確実性が増しています。そうした中、当社グループは新薬の創製を1丁目1番地に据え、最先端の情報や技術にアクセスできる体制づくりやその人材育成など、ゼロから1を生むための様々な取り組みを進めています。

荻原豊社長

 医薬品の研究開発の成功確率は今や約3万分の1とも言われており、非常に難易度が高く、失敗の連続です。私は理工学部の出身で、もともとはエンジニアですが、仮説と検証を繰り返すプロセスはプログラミングも創薬も同じで、容易に成果が出ない苦労もうまくいったときの感動もよく分かります。ですからそのプロセスを丁寧に見ていきたいですし、努力や創意工夫が報われた時のゾクゾク感をすべての社員に味わってほしい。その環境を整えることがリーダーとしての務めだと思っています。

コロナ下の自粛期間に料理と料理本に目覚める

 新型コロナウイルス感染症の感染拡大は医薬品業界に甚大な影響を与えました。ここ数年の患者さんの受診抑制の動きは当社グループの経営にとっても試練でしたが、現在では、コロナ禍前の水準に回復するとともに、成長ドライバーとして期待する新薬が出揃ったことにより、新たな成長期を迎えたものと捉えています。

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 コロナ禍は人々の生活も一変させ、私自身、外出の自粛が求められた2020年は出社時間が大幅に減りました。自粛期間の最初の数日は家の大掃除をしたり断捨離をしたり。そのうち何かクリエーティブなことがしたいと、料理を始めました。一人暮らしをしていた若い頃の自炊はズボラ料理ばかりでしたから、簡単でおいしいと評判の料理研究家・リュウジさんのレシピに楽しく挑戦しています。「極限まで無駄を削ぎ落とした究極のとろとろカルボナーラ〝 虚無ボナーラ 〟」は何度か試しています。人にふるまう自信はないので1皿分作って出来不出来を確認するのですが、家族からは理科の実験のように見えるみたいです(笑)。そのうち料理本を楽しむようになり、行き着いたのが、分とく山の総料理長・野﨑洋光さんがまとめた『完全理解 日本料理の基礎技術』です。プロの料理人はこれほどの高い技術と繊細な気づかいで一品一品を提供しているのかと感嘆しました。料理人を目指す人が読むような一冊で、料理の参考にというより、読み物として楽しんでいます。

10代の頃から興味が尽きないプログラミング

荻原豊さん・手元

 私の得意分野は工学系で、中学時代からコンピューターに触れていました。数学教師の準備室にアメリカのコモドール社のコンピューターが置いてあり、先生がカチャカチャ動かしているのが面白くていつも覗いていたら、触らせてくれるようになったのです。高校では巨大なコンピューターが使われないまま置いてあったので、動かして遊んでいました。自然とプログラミングに興味が向き、それは今日まで続いています。最近は人気のプログラミング言語「Python(パイソン)」を使ってプログラムを書いています。
 アウトドアの趣味としては、小学生時代から高校時代まで硬式テニスをやっていました。近頃は息子も始めたので、一緒にプレーする楽しみができました。これから挑戦してみたいのは、最低限の道具だけで自給自足のキャンプをするブッシュクラフト。コロナ禍の反動で自然を求めているのかもしれません。
 時間を忘れるほど仕事や研究に没頭する情熱は尊く、当社グループ全体で共有したいことです。一方で福利厚生の制度を活用しながらワーク・ライフ・バランスを保つよう社員に伝えています。人々の健康への貢献を標榜する会社ですので、リラックスの時間も大切にしています。(談)

〈荻原豊さんのおすすめ本〉

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『自助論』(三笠書房)サミュエル・スマイルズ・著 竹内均・訳

 人生をいかに生きるべきか──。自分を活かすための不朽の人生論。刊行以来、世界数十カ国の人々の向上意欲をかきたて、希望の光明を与え続けてきた、ベスト&ロングセラー。

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『完全理解 日本料理の基礎技術』(柴田書店)野﨑洋光・著

日本料理の技法を豊富な写真で追いながら、まるごと解説。新人の心構えから板長の役割まで、料理人の仕事を部署ごとに順を追って理解できる。料理人としての修業ストーリーの側面を持つ一冊。

荻原豊(おぎはら・ゆたか)

杏林製薬 代表取締役社長CEO


1967年東京都生まれ。青山学院大学理工学部卒。90年杏林製薬入社。2011年取締役社長室長、16年常務取締役、194月キョーリン製薬HD常務取締役経営戦略室長などを歴任し、196月から現職。

※朝日新聞に連載している、企業・団体等のリーダーにおすすめの本を聞く広告特集「Leaders as Reader」に、荻原豊氏が登場しました。
(全国版掲載。各本社版で、日付が異なる場合があります)

広告特集「Leaders as ReaderVol.144(前編:2024年1月3日付 後編:1月11日付朝刊 東京本社版)