経済発展著しいUAE、カタール 商習慣では「中東風」が根強く ~ドバイを訪れて~

 中東と一言で言ってもかなり広大だ。たとえばトルコが中東なのか欧州なのか、国内外で意見が分かれる。経済的にも成長著しい地域といまだ紛争の絶えない地域との差が非常に大きいのも事実である。その中東でビジネスとしてとらえるのであれば、やはり中心はアラブ首長国連邦(UAE)のドバイ、そしてカタールのドーハだろうか(トルコは今回除外して考える)。今回ドバイを訪れたのは2度目だが、相変わらず成長が著しい。ドバイが外国貿易と外国投資を奨励するフリーゾーン政策を駆使してグローバル企業を誘致しているのは有名だが、我々の仕事として一番かかわりがあるのは「メディアシティー」と呼ばれる地域である。

※画像は拡大表示します。 ドバイ市内 ドバイ市内

 ここにはBBCやロイター、CNNといったメディアや大手広告会社の中東拠点が集まっている。まさに「街」と呼ぶにふさわしい規模で、大手に限らず数人で事務所を構えるような企業にも、大小様々なスペースを提供するオフィスビルが林立している。この地域ではスペースや税金の優遇の他にも、国の文化や習慣にそぐわないような言語や表現についても制約がかなり緩和されているそうだ。

 メディア産業に続いて、近年国策として力を入れているのが教育産業である。これはドーハも同様で、有名大学や留学生の誘致に膨大な敷地や資金を提供している。オイルマネーという盤石な下支えがあってこそできる政策だが、すでに成功しているリゾート、観光産業に留まることなく野心的に国力を高めようとする勢いは、すさまじささえ感じる。

ドバイ市内のショッピングモール ドバイ市内のショッピングモール

 ドバイに滞在すると比較的欧米文化に寛大で、街中に幾つもある超巨大ショッピングモールには、名だたるハイブランドや高級宝飾店、スーパーなどが入っている。カタールと違いアルコールにも寛大なのも観光客には利点である。ビザの関係だろうか、欧州で目にするほど中国人観光客は少なく、逆に買い物に熱心なのは韓国人観光客だ。

 ホテルのテレビ放送では各国の言語放送が楽しめるが、屋外広告や新聞はアラビア語である。英語の新聞や雑誌ももちろん購入できるが、場所は限られる。そのためだろうか、新聞広告に関しても、国際企業のグローバルキャンペーンであるにもかかわらず、メッセージやタッチをアラビア語のみに統一したり、モデルを中東風に変えてしまったりと、中東仕様にしているものが目に付いた。

 
現地の新聞、広告もすべてアラビア語 現地の新聞、広告もすべてアラビア語

 しかしながら商習慣が欧米並みに成熟しているかというと、残念ながらそれは違う。個人的な経験ではロシアでも同じことを感じるのだが、いまだアンダーテーブルでの交渉やキックバック(奨励金)、政府や王族とのコネクションがものを言う文化が根強く残っている。カタールなどはさらに顕著で、産業のほとんどすべてと言ってよいほどに王室が絡んでくるため、彼らの異存でころころとビジョンが覆る。そのため、どうしても中東圏以外の人間には異質に映るし、理解に苦しむ部分も多い。

 2022年のサッカーW杯はカタールで開催されるが、もちろんスタジアムなどの整備はこれから。交通インフラも甚だ心もとない国だが、数年前に訪れた際に乗ったタクシーの運転手は、「ここ(カタール)は、国は小さいけどお金があるからね。サッカーの決勝戦も(右の海を指さして)そこに島を浮かべてスタジアムを作るんだよ」と愉快に話していた。カタールにしてもドバイにしても、現在もほぼ街全体で新しいビルやリゾート地が開発され続けている。確かに潤沢な資金に恵まれた地域ではあるが、彼らが切望する国際社会でのステータス向上のためには、商習慣や国際間交渉など幾つもの分野で、改善すべきところがまだまだあるのではないだろうか。

  いずれにしても、「潤沢な時間と資金があって旅行するならドバイは楽しいところだろうな」と、そこらじゅうのプールや海で戯れる人々を眺めつつ、スーツ姿に汗かきながら、今回も思った次第である。
 

(朝日新聞社 広告局 ロンドン駐在 林田一祐)