英国スタイル?一風変わった自社広告

 2月に入り英メディアの紙面をにぎわせている話題が、馬肉混入問題である。英国最大規模のスーパーマーケットチェーン「テスコ」で売られていたハンバーガー用の牛肉(パテ)に、馬肉が検出されたことに端を発し、政府が調査を開始した。話はどんどん大きくなり、目下、欧州を巻き込んだ問題に発展しつつある。テスコは早々に新聞広告で謝罪し、改善を訴えたが、この問題の収束までにはしばらく時間がかかりそうである。

 今回のテスコの広告や以前紹介したスターバックスの謝罪広告など、新聞広告の重要性は国を問わない。一方でメディア側の広告、いわゆる自社広告にはどのような特色があるのか、今回はこの事例をご紹介したい。

 欧米の新聞は日本と違い、月ぎめ購読の割合が少なく、週末版の需要が高い。週末版にはたくさんの別刷りや付録が付いており、毎週週末版だけを購入する読者も少なくない。そうした背景もあり、1月最終週に週末版を刷新した、ガーディアン紙とオブザーバー紙のキャンペーンがなかなかしゃれていた(オブザーバー紙は日曜発行でそれ以外の日はガーディアン紙が発行される)。

※画像は拡大表示します。 1月25日(金)掲載 全面広告 1月25日(金)掲載 全面広告

 キャンペーンは事前に「週末が変わります」といったトーンで告知を展開。そしていよいよ「明日変わります」という意味合いで1月25日(金)に掲載された全面広告が右の写真だ。契約書を模したデザインとなっており、中身はざっとこんな内容である。

   【お知らせ:土曜発行のガーディアン紙と日曜発行のオブザーバー紙の許可なく、「WEEKEND」という単語は使えなくなります。読者のみなさまへ、私たちは今後「WEEKENDS」がどのように変わるのか、ご報告いたします。明日から、「WEEKEND」という単語は「ガーディアン紙&オブザーバー紙のWEEKEND」を意味することとなります。両紙の提供する膨大かつ豊かな情報は、ニュースやスポーツ、文化など多岐にわたる分野でみなさんが最高に週末を楽しめる一助となるでしょう。(中略)みなさんは両紙をお読みいただくことで、週末のすべてを手にします。「すべて」です。それゆえ、物理的に(そして法的にも)、「WEEKEND」は我々(ガーディアンとオブザーバー)のものとなるわけです。どのような団体も法的に訴えない限り、この変更は変わりません。本当です。我々には優秀な弁護団がいますから、何も恐れるものはありません。】メッセージの下にはヴァイスプレジデントのサインがあり、読者のサインが入れられる契約書スタイルになっている。

 ここまで読むといくらなんでもやりすぎとも感じるのだが、もちろんオチがあって、紙面の最下段には次の文言が配置されている。「信じていないでしょう?ということで、ホームページに行って最新のCMをご覧ください」

 もともとイギリス人はこういったウイットや皮肉をちょっぴり利かせた語り口が大好きである。しかし、「法的に」とか「弁護士がいます」とまで書かれると・・・というのはどうやら筆者の取り越し苦労だったようで、周りに聞いてみるとなかなか気の利いた広告だったという評価が大勢。さすがに日本でこの手法は使えないと思うが、制作側の意図はしっかり伝わったようである。果たしてこのキャンペーンの成果がどうであったのか、数字が出るまでにまだ少々時間が必要だ。「最高の週末」にどこまで読者が納得したか、結果が楽しみである。

(朝日新聞社 広告局 ロンドン駐在 林田一祐)

『WEEKEND』のCMはこちら(英語)
http://www.guardian.co.uk/advertising/own-the-weekend-hugh-grant