ダイヤモンド・ジュビリーや五輪の特需も終わり、喜べない経済状況が露呈しているロンドン。今年も「在庫を抱えるよりは」「同業他社と横並びではやっていけない」など様々な思惑で、一足早くクリスマスセールを始めるブランドが続出している。キャサリン妃の妊娠発表でにわかに華やいだのもつかの間、キャサリン妃の入院する病院に豪州ラジオ局のいたずら電話が入り、看護師が自殺するという思わぬ悲劇を呼び、祝賀ムードも自粛ムードへ暗転した。メディアの倫理観や国民気質が問われるという別の問題へ発展している。
このいたずら電話事件もそうだが、「インターナショナル」や「グローバル」という視点が話題に上ることが多い。英国内の景気回復と欧州連合(EU)支援の拠出の板ばさみのキャメロン政権。英王室に関しても、王位継承者が女性でもいいかどうかは、英連邦各国の総意で決まることになっている。英国だけで完結する話題よりも他国、他共同体との調整が重視される案件が目白押しである(ちなみにウィリアム王子とキャサリン妃の子どもは男でも女でも王位継承権が与えられることになった)。
そんな中、別の「グローバル」な話題となったのが大手コーヒーチェーンのスターバックスである。ご存じの通り米資本の大企業だが、紅茶の国イギリスでも目覚ましい躍進を遂げている。かねてから世界規模で事業を展開するグローバル企業が適正に法人税を支払っていないという問題が、欧州をはじめ様々な国で議論を呼んでいる。12月6日、スターバックス社は向こう2年間で約2,000万ポンド(約26.6億円)を英国税務局へ支払う方針を発表した。同社は1998年にイギリスへ進出しているが、これまでに様々な減税制度を利用して節税してきた。特にオランダにあるグループ企業との間で高額なブランド使用料のやりとりを行って租税回避をしていると、英議会などで再三話題になっていた。
同社としては、これまで「見解の相違」などと対応してきたが、今回新たな方針を表明、実行に移すことになった。翌7日の新聞各紙には同社の方針を語った全面広告も掲載され、「我々(スターバックス)は完全ではありません。しかしこの数カ月の間、様々な意見に耳を傾けてきましたし、これからもイギリスに貢献していきたいと思います」という口調で、消費者への理解を求めた。しかしマーケットはスターバックス社のこれまでの対応に敏感で、不買運動なども顕在化している。過去3カ月の数字ではライバルのコスタコーヒーが売り上げを7.1%伸ばすなど、逆風が続いていた。
今回、マーケットの反応に加えて英議会が強力に議論を推し進めた背景には、同様の国際企業(目下ターゲットと目されるのはあるIT系企業群)にも強硬な姿勢をとっていこうという意向の表れで、いわば譲れない闘いであったことは明らかである。最新の調査ではイングランド、ウェールズ地区在住者の3人に1人が非英国圏で生まれた人という数字も示され、今後も国際化という波と自国の利益確保の世論の間で、様々な攻防が繰り広げられると目されている。今回の企業広告の文面を読んでみても、「議会の意向はくむけど、謝罪はしないよ」という含みを感じたのは筆者だけではないと思う。それだけ、この問題が共時性を備えたセンシティブなものであるということに違いない。日本の企業広告の姿勢とのギャップを感じつつ、今後の英議会やスターバックス社の業績動向、そして消費者の選択が気になるところである。
(朝日新聞社 広告局 ロンドン駐在 林田一祐)