日本は年の後半に入ると祝日の関係で連休が増えるが、イギリスは8月末の祝日が終わると次はクリスマス。この時期になると旅行の広告もだんだんとにぎやかになってくる。では最近のイギリスを訪れる観光客の流れはどうなのだろうか。
英国政府観光庁「ビジットブリテン」によると、2011-12年の記念イヤー(ウィリアム王子の結婚式と女王在位60周年、そして五輪にパラリンピック)は輝かしい記録を残したという評価である。実際、パラリンピックは過去最高のチケット売り上げと来場者を記録し、年末を前に「大成功」とうたっている。観光庁ではすでに2020年までを視野に入れた次のアプローチが準備されているが、2011年、金額的に最も英国に貢献したのはアメリカである。続いてドイツ、フランス、オーストラリアなどが続き、アジア圏では中国、日本、香港の順となっている。
一方、過去5年間(06-11年)の来英者数で最も伸びたのはブラジル(+46%)だ。マレーシアやシンガポールも増えているが、まだまだ規模自体は小さい(ちなみに中国は+39%で日本は-31%)。それを受けて、向こう8年間で来英者数を積極的に維持、獲得していくエリアとして、アメリカ、オーストラリア、中国、インド、ブラジルなどにアプローチをかけていくそうである。
残念ながら日本はこの時点でランク外となってしまった。来英者数よりも、滞在中に消費する金額が小さく、得点が稼げなかったようである。老舗(しにせ)ブランド、バーバリーは中国人対応のためのスタッフを常駐させているし、相変わらず中国人がブランド品を大量購入するシーンは目に付く。同団体のチェアマンは「企業誘致という点では、日本から得る恩恵は非常に大きい」と説明するが、国際マーケットで急成長した中国の存在感は大きい。
映画「007スカイフォール」
イギリスは、メディアへの広告展開やさまざまなPRに、今後国策として力を入れていくことを明らかにしている。なかでも、目下話題なのが映画「007スカイフォール」への手厚いサポートだ。007シリーズの最新作は、登場50年を祝う記念作品である。イギリスの諜報(ちょうほう)部員が主人公の「007」は、もともとイギリスにとってはPRに重要なコンテンツとしてとらえられているが、本作は記念作品ということもあって、ロンドンも多くのシーンに登場している。五輪の開会式でも女王陛下の命により「007」が登場したが、あの映像自体、普段公開されないバッキンガム宮殿の女王私室で撮影が許されるなど、国をあげての応援姿勢である。「ハリー・ポッター」の最終作のワールドプレミアでも、トラファルガー広場の使用が許可されるなど、イギリスを効果的にPRできるとなると寛大だ。
国際競争のなかで自国のPR戦略を練るのは容易ではないが、こうやって策を練って実践するイギリスが「魅力創造国」であることは間違いない。
*数字は英国政府観光庁調べ。
(朝日新聞社 広告局 ロンドン駐在 林田一祐)