五輪とパラリンピックが盛大に開催され、幕を閉じたロンドン。とくにパラリンピックは発祥の地ということで前々から期待は高かったが、実際、過去最高の動員数を記録した。あらためて、その意義と可能性を世界にアピールしたのだった。しかしながら五輪開催当初は、街から人がいなくなって「ゴーストタウン」と揶揄(やゆ)されたロンドン。数字で見てもいろいろなところで悲喜こもごもだったようである。
まず期間中の地元新聞の売り上げ動向だが、数字がよかったのはタイムスとデーリー・テレグラフだけであった。前月比でタイムスは0.9%、テレグラフは0.49%の増で、ガーディアンやフィナンシャル・タイムズが数字を下げ、健闘した。タイムスは期間中、大会の写真を大きく使ったラッピング広告を展開し、確かによく目を引いていた。(記事参照)
小売業で好調だったのはオフィシャル百貨店となったジョン・ルイスと、安さで定評のあるプリマーク、そしてスポーツ用品のスポーツダイレクトだ。一方、イギリスを代表するカジュアルブランドであるネクストは2けたマイナスと大きく数字を下げ、9月半ばを過ぎてもセールを続けているアメリカ系ブランドなどが、いまだ目抜き通りで目に付く。
好調だったジョン・ルイスはフロアを大きく割いて、ロンドン2012(五輪とパラリンピック)のグッズ売り場を展開した。小規模なオフィシャルショップが市内にいくつかしかなかったこともあり、連日観光客が詰め掛けた。またプリマークは、特に女性用衣類をとにかく廉価で販売する百貨店で、そのオリジナルブランドのデザインは、有名ブランドの盗作ではないかと言われるほどだが、消費者はやはり安さにひかれるようだ。
安さではスポーツダイレクトも同様である。五輪やサッカーなどさまざまなスポーツの公式ユニホームのレプリカやTシャツなど、ありとあらゆるスポーツグッズが廉価で手に入ると人気の店だが、五輪期間中は応援グッズを買い求める人が殺到した。期間中、実に20%の売り上げ増を記録している。筆者も日本代表応援用のフラッグを購入したが(2GBP)、日本代表応援グッズは在庫が少なかったのか、はたまた好調だったのか、早々に全店の在庫がなくなったそうである。
ユーロ危機の到来以来、イギリス経済は堅調なほうだが、決して経済状況が良いというわけではない。その影響か、とかく「安い」という要素は消費者の最重要関心事になっているといってもよい。そうした状況の中、9月に入り恒例のロンドン・ファッション・ウイークがスタートした。昨年来スポンサーの募集に苦労して、開催を中止したり規模を縮小したりするイベントや展示も多いが、人気百貨店セルフリッジのショー・ウインドーが話題になっている。
ルイ・ヴィトンとコラボレートした草間彌生ディスプレーはひときわ目立つし、立ち行く人の注目を集めている。「安い」を求めつつ、「華やかさ」や「奇抜さ」も忘れないイギリス。ファッションの魅力とはこういう多様性にこそあるが、セルフリッジ名物の大時計の前に立つ草間さんの真っ赤なフィギュア・・・なかなか壮観な光景である。
(朝日新聞社 広告局 ロンドン駐在 林田一祐)