五輪期間中に会場に足を運んでみて、いくつかの気づきがあった。まず、五輪公式スポンサーの広告が思いのほか少ないことだ。会場内のショップで使えるクレジットカードはVISAだし、公式計時はオメガといったように五輪にスポンサーメリットはあるのだが、いわゆる純粋な広告の「枠」がないのである。サッカーW杯やEURO2012の会場内広告に目が慣れてしまったせいか、なんとも不思議な感じがした。その分、会場以外の屋外広告や交通広告などでキャンペーンを張ることになるのだが、今回はフェイスブックやユーチューブといったソーシャルメディアと連動したキャンペーンが目を引いた。P&Gのアスリートの母親をテーマにした作品などは、完成度や感銘度の高さから各国の広告メディアで話題になっているので、記憶にある方も多いと思う。
また会場では入場して席に着くと、試合開始の1時間ほど前からDJのトークショーやアトラクションが始まる。「xx側スタンド席、拍手!」「xx国の応援団はどこ?」と観客の注目を集めたり、ウエーブの段取りを面白おかしく説明したりして、場を温めていくのだ。競技ごとに趣向も凝らされており、たとえば体操の会場では五輪体操の歴史を映像とパフォーマンスで紹介し、ビーチバレーでは地元のダンサーたちが夏や海をイメージした踊りを披露していた。五輪会場がこのようなかたちでエンターテインメントとしてショーアップされていたのは、少々驚きだった。
今回、なかなか目にすることのないメーン会場のプレスセンターを見学できたのも幸運だった。セキュリティーは大変厳しく二重三重の構えだが、中に入ってしまえばコンビニや土産ショップ、マッサージルームまである充実ぶり。取材陣に渡されるメディアパスはプリントメディア用とテレビ用とでは出入りできるエリアが若干異なるなど、細かな区分がされていたのも印象深い。
五輪が無事に終わり、今はパラリンピックだが、イギリスはパラリンピック発祥の地でもあり、チケットも過去最高レベルの売り上げだそうだ。ちなみに今回の五輪とパラリンピック、またそれに付随する文化イベントは、地元では「London 2012」という名称で総称されており、スポンサーの広告展開で選手を特集する場合は、ほぼ100%、パラリンピックの選手と五輪選手が一緒に登場している。マーケティング戦略としても、日本と大きく異なる点といえるだろう。
五輪閉会式翌朝の新聞には、パラリンピックのオフィシャル放送局、チャンネル4のこんな広告が掲載された。「Thanks for the Warm-Up (ウオームアップしてくれてありがとう)」・・・五輪だけではないロンドンの夏は、まだまだ続く。
(朝日新聞社 広告局 ロンドン駐在 林田一祐)