五輪を終えてまず思い起こすのは、期間中繁華街がすいていたということ。大渋滞を想定して皆が避けたのか、あるいは事前アナウンスが効きすぎたのかなどさまざまな憶測を呼んでいたが、実際小売店の売り上げは軒並み前年同月と比べるとマイナス。地下鉄も通勤時などは例年よりもすいているのではないかと思うほどであった。
そういった予想外の展開となった一方で、予想通り地元プリントメディアの部数争奪戦はヒートアップすることとなった。各紙とも連日「五輪別刷り」を封入したり、駅売り分にエコバッグをサービスしたりと、あの手この手で日々の部数獲得に励んだのだった。なかでも紙面づくりでインパクトがあるのはタイムズで、連日、「記念ポスター」と題したラッピング紙面で読者にアピールした。このラッピング紙面の広告主はロンドン五輪のオフィシャル・ワールドワイド・パートナーであるSAMSUNGだ。記念ポスターには「XXさんXXメダルおめでとう!」とか「XXさん、今日は期待しています」といった英国アスリートへのメッセージが連日日替わりで掲載された。完全にイギリス・マーケットに特化したビジュアルでのキャンペーンといえるだろう。
ところで7月25日の女子サッカー1次リーグで、北朝鮮チーム紹介時に韓国の国旗を掲示してしまうというアクシデントがあったが、27日のThe Daily Telegraphに掲載された全面広告は、この話題を逆手に取って話題になった。広告主は英国最大手のメガネチェーン"Specsavers"。ユーモアや皮肉が効いた広告キャンペーンで知られる同社は、"Should've gone to Specsavers"(スペックセイヴァーズに行っておくべきだった・・・)というキャッチコピーを常に使っているが、今回はそのコピーをハングルで表現した。そして、デザインは写真にあるようなもの。まさにタイムリーな企画だが、筆者には少々挑戦的にも思えた一例であった。
今回の五輪はソーシャルメディアが台頭して初の大会ということで、開催前は組織委員会もSNSを経由した情報発信やコミュニケーションを推奨していた。選手との距離が縮まるなど新しい五輪のかたちが生まれている一方で、ネガティブな話題も後を絶たない。顕著な例では、メダルが期待されていた男子飛び込みのトム・デイリー選手がシンクロ競技のメダルを逃した直後から、同選手を中傷するツイートをした少年が、翌朝警察に拘束されるという事件があった。内容が本人や家族を侮蔑(ぶべつ)するあまりにもひどいものであったため、ハラスメント法に抵触したという容疑だが、これ以外にも、差別的つぶやきをしたことで複数の国の選手が自国の組織委員会から代表権を剥奪されている。このように個人の常識や見識が問われるというのも、新しい五輪のかたちだろうか。
競技会場に必要以上に空席があることも、大きな話題となった。空席の原因はさまざまな理由が取り沙汰されているが、当初はボランティアや警備をサポートする警察、軍人とその家族にチケットを提供したが、その程度ではとても事足りず、毎日バラバラとチケットが再発売されることとなった。最後にはE-Ticketまで登場する競技もあったが、こういった大規模な大会の運営の難しさを垣間見るひとコマであった。
(朝日新聞社 広告局 ロンドン駐在 林田一祐)