この原稿を書いているのはまさにロンドン五輪開幕直前で、街中にバナー(旗)や道路にはオリンピックレーンが設置され、五輪マークがひしめいている。あいにく、記録的な雨続きで、ところによっては洪水も起こっていたが、直前になり天候も劇的に回復。期待と不安の入り交じったスポーツの祭典が目前である。
オフィシャルスポンサーを中心としたPRもヒートアップし、さまざまな試みが展開されている。まず動画CMで話題を呼んだのがオフィシャルパートナーのアディダスのテレビCM。“Take the Stage”を共通メッセージにして、飛び込みのトム・デイリーや体操のルイス・スミスといった英国選手をズラリと並べたCMは、ローカルキャンペーンとしては王道の手法で見事な出来栄え。市内目抜き通りにあるオフィシャルショップや有名百貨店の外観装飾とも連動しており、目を引いている。
一方、タクシーのペイント広告で目を引いたのは、パナソニックやVISA、DOWなど。またプリント媒体ではUPSやブリティッシュ・エアウェイズの露出が目立っている。
さらにオフィシャルではないものの「夏のスポーツを3Dで」という切り口で、衛星放送のブリティッシュ・スカイ・ブロードキャスティング(BスカイB)が大衆タブロイド紙「サン」でラッピング広告を実施した(7月13日付)。サンとともに、先日英紙経営陣から退任することとなったルパート・マードック氏傘下の企業だが、実はサン紙にとってラッピング広告を掲載するのは42年の歴史の中で初の試みだったそうである。
サン紙は3ページ目に必ず女性ヌード写真があるということで有名で、イギリスでは最も大衆的とされる新聞。地元の人に言わせると「地下鉄の中で読むのは恥ずかしいので、フィナンシャル・タイムズの間に挟んでこっそり読む」とやゆされるほどだが、今回BスカイBがラッピング広告に投資した額は60万ポンド(同紙の発行部数は6月数字で約258万部)に及んだ。日本円にするとおよそ7,400万円程度で、これは英国のラッピング広告の値段としては史上2位(ちなみに最高額は1996年にペプシがデイリー・ミラーで行った100万ポンド)の規模だ。
バイイングを行ったメディア・コムによれば「広告主は常に新しい広告の機会または媒体を求めている」ということで今回の出稿になったそうだが、日ごろからサン紙の1面は派手な見出しや写真が躍っているため、逆に広告のほうが地味にみえてしまったという声もちらほら伺えた。皮肉なものだが、改めてメディアの特性とそれにあったクリエーティブの重要性を感じた次第である。
(朝日新聞社 広告局 ロンドン駐在 林田一祐)