見習い制度の活用で雇用促進を

  この冬は暖冬だと喜んでいたところ、2月に入り大寒波が欧州を直撃。「ロシア、東欧は-20℃、ドイツやブリュッセルなども-10℃・・・」といった報道が連日続き、この寒波でロシアなどでは多数の方が亡くなった。ここロンドンも-3℃くらいになると雪が降り、一気に寒い冬が到来。中旬になって寒さは緩んだが、おかげでもはやロンドンの冬の風物詩ともいえる「ボイラーの故障」が多発、筆者もそれに悩まされたひとりである。

  昨年来のユーロ危機は言うに及ばず、欧州でも経済環境の悪化、特に失業率の上昇は大問題となっている。BBCなどの報道によると、イギリスではこの2月に失業率が8.4%を記録し、過去16年間では最悪の数字となった。さらに16歳から24歳までの若年層は22.2%と際立って高い数字を示している。ちなみに日本の失業率は現在4%台なので、いかに深刻かお分かりいただけると思う。

  そのような背景もあり国や自治体は対応に追われるわけだが、先日ロンドン市はロンドン市長の名を冠して企業向けに「見習い制度(Apprenticeship)の活用」を促す広告をガーディアン紙などに掲載した。この「見習い制度」とは、給与を得ながら、一定期間の間、企業で仕事を学ぶ制度であり、職業資格として認められている。個別のプログラムやトレーニング内容は各企業によりカスタマイズされる。こういった公的制度を通して雇用の機会を広げようというわけだ。

「見習い制度の活用」の広告

「見習い制度の活用」の広告

  さて「産業界の長の皆様へ」とメッセージ形式でつづられた内容を簡単に述べると、次のようになる。

1. ビジネスの再活性化と街全体の発展のために市長として決断した

2. 2012年は五輪やパラリンピックを控えすばらしい年となるが、この成功のためには若年層の力なくしてビジョンは語れない。そのためにこの見習い制度の活用をみなさんにお願いしたい

3. すでにロンドン市は5万人の制度活用者を創出してきたが、これは始まりにすぎない。行政はこの制度を活用いただくために最大100%の資金的援助も辞さない考えだ

  「Apprentice」は「見習い」とか「徒弟」といった意味で使われる単語だが、市長はこの制度では早い段階(10-20代)からジョブトレーニングを兼ねて仕事をすることで企業への忠誠心も生まれることを利点として示している。確かに日本と違い欧米は転職に対しての意識や年金制度などの垣根が低く、突然の解雇などのケースも多い。ただそもそもの求人需要がない中で、雇用する側とされる側の双方にメリットがあるようメッセージが打ち出されているのが、今回の施策である。

  ちなみに文中にも出てくる五輪であるが、期間中地下鉄の時間延長運転を決めたものの、運転手や作業員の手配に特別ボーナスの支給が必要だったり、明らかに輸送機関のキャパを超えると目される膨大な人の動きを想定して、地域内の企業には時差出勤や在宅勤務の協力要請が出されたりと、こちらはこちらで迷走中。「すばらしい年」を創出するには、解決すべき問題山積みのロンドン市である。

(朝日新聞社 広告局 ロンドン駐在 林田一祐)