暖冬のせいか、雪らしい雪も降らずに新年を迎えたロンドン。言わずもがなのオリンピックイヤー開幕である。その前に女王在位60周年を祝うダイヤモンドジュビリーも控えており、年始のあいさつにも「festive year」とか「big year」といった枕詞(まくらことば)が頻繁に使われている。しかし残念ながらユーロ危機や国内の失業率上昇など決してよい経済環境にはないため、驚くほど早くから始まった冬セールの苦戦のニュースが紙面をにぎわしている。独立系ブランドで働く友人などは、「ZARAやNEXTといった大規模ブランドがクリスマス前からセールを始めてしまったお陰で大打撃だった」とこぼしている。また、人材派遣会社にも職を求める人からの問い合わせが後を絶たないそうである。
そんなマーケットで、「YAMS」というワードがちょっとした話題だ。最初に耳にしたときには、恥ずかしながら筆者はヤム芋のことかと思ってしまったのだが、これは(a group of) Young, Affluent, Metropolitansからの造語の頭文字で、注目のメディアオーディエンス層だそう。日本語に直すと「21歳以上45歳未満で大卒以上。年収600万円以上の都市部に住んでいる層」というところだろうか。欧州ではけっこう頻繁に話題に取り上げられるヨーロッパの富裕層を対象とした調査「EMS(European Media and Marketing Survey)」で初めて登場した切り分けである。
なぜにこの層が注目されているかというと「最新のトレンド・商品に最も敏感な層」と位置づけられているからである。とにかく新しいものは試してみるという質問に27.8%が賛同しており、20.4%が常に新商品・サービスの動向を気にしているそうだ。
ちなみにイギリスの大卒初任給はおよそ400万円程度。フルタイムの大学進学率がおよそ65%でその卒業率が約85%というのが最近の平均値だが、給与からはだいたい40%程度が税引きされることになる。さらに最新のデータでは大卒失業率が44%という過去最悪の数字を記録しており、Youngという割には比較的高い年齢まで網羅されているのもこの辺に要因があるのかもしれない。またこの調査自体は汎欧州対象なので、ユーロ危機まっただ中の国ではさらに厳しい状況にあるところも多い。
さらに面白いと思ったのがデジタル・メディアへの接触調査の項目で、日に1度以上接触するメディアとしてインターネット41.5%、メール使用34.4%などの数字が並んでいる。SNSへの接触は12.4%で、最も頻度の多かったのがSMSテキストの51.6%。昨年のロンドン暴動やジャスミン革命などでも注目を浴びた携帯メールだが、手軽という意味では欧州ではすっかり電子メールを超えた存在である。とはいえ、日本的な感覚からすると、敏感という割には総じて接触率が低めでは、という点が気になる。いまだ大容量のネットが普及していなくても、はたまた携帯回線が頻繁にとトラブルを起こすとしても、デジタル世代の「敏感」を語るなら、もう少し高い数字が欲しいところ。今回の調査では対象の3分の1を占めたというYAMSだが、マーケットの潮流を語るには少々データ不足といったところか。
出典:「M&M Q3 2011」
(広告局ロンドン駐在 林田一祐)