マーク・ジェイコブズ「Oh, Lola!」の広告から見えた、広告基準に映される国の特性

 たばこの有害警告やナンバーワン表記など広告に課せられる規制やガイドラインには、その国の文化的背景や世相が色濃く反映される。ここイギリスではASA(Advertising Standards Authority)という機関が、一般消費者からの苦情を受けたり広告会社や広告主へ警告を発したりする立場にある。俗に英国広告基準局などと称されるが、今年に入ってこの団体がにわかに注目を浴びている。

掲載が禁止されたマーク・ジェイコブズの「Oh, Lola!」の広告 掲載が禁止されたマーク・ジェイコブズの「Oh, Lola!」の広告

 11月に入ってASAが警告を発し、実際に広告の掲載禁止を言い渡したのが、ファッションブランド「マーク・ジェイコブズ」の香水「Oh, Lola!」である。アメリカの人気女優ダコタ・ファニングをイメージキャラクターに配したもので、広告自体は夕刊紙イブニング・スタンダードのESマガジンやサンデー・タイムズ・スタイル・マガジンなどに掲載された。

 筆者などは実際にビジュアルを見ても「ロリータを意識したものだな」程度にしか思わなかったのだが、「17歳の彼女は実際にそれより若く見え、さらにドレスの丈や彼女の脚と商品の配置から性的関心、ひいては子どもを性の対象にしていると、とえられかねない」という理由で、この処分が下ったというもの。メディア各紙の情報によれば実際に苦情があったのは4件だったそうだが、制作意図が「現代のロリータ」だっただけに真っ向からそれが否定されたといっても過言ではないだろう。

 実はこのいきさつには背景がある。まずダコタはかつて性的虐待をテーマにした映画に出演したことがあるのだが、この際にマネジャーを務める母親やエージェントに対して「作品に出演をさせたのは幼児虐待だ」とメディアがかみ付いたことがある。またさらに、キャメロン首相を座長に「ダウニング街サミット」と称される会議が開かれたのがこの10月。ここではテレビ番組や広告での性的表現、特に子どもに悪影響を与える表現などが議論されたのだが、会議の直後にASAからもアウトドア広告の新基準が出されている。つまり「性的表現」や「子どもへの悪影響」というのはまさに旬の話題で、今回の決定もまさにこの流れに沿った判断だったといえよう。

 ASAは今夏、オスカー女優ジュリア・ロバーツをメーンに据えたランコムの雑誌広告にも「しわやシミの修正が過剰」を理由に掲載不可を言い渡しているが、これはAERAなど日本のメディアでも取り上げられたのでご記憶の方も多いだろう。どちらの事例もある種の「感覚」や「印象」に基づく判断で、日本の広告基準から考えると少々違和感を覚えないでもない。ただ「子どもへの悪影響」という点では、非常にナーバスなのが最近の潮流であろうか。

(広告局ロンドン駐在 林田一祐)