ソーシャルメディアの位置づけと役割、そして影響度

 8月6日夜にロンドン北部で起こった暴動は、その後ロンドン全土に飛び火。大量の警察官を導入し、2千人を超える逮捕者を出す騒ぎとなった。そもそもは警察官による黒人射殺事件への抗議に端を発したこの暴動だが、様々な政策に鬱憤(うっぷん)のたまっていた10代20代の若者が中心になって蜂起。ここで重要な役割を果たしたのがツイッターやフェイスブックといったソーシャル・ネットワーク・サービス(SNS)、そしてブラックベリーのBBメッセンジャーだった。

 日本ではSNSといえば国内最大のミクシィが有名だが、それでも日本のネットユーザーのうちSNSを活用している割合は30%強(グローバル・ウェブ・インデックス・サーベイ2010調べ)。同調査によると米国(55%)や英国(45%)に比べるとまだまだ規模は小さい。さらにインドネシア(80%)やフィリピン(79%)などと比べても大きな差がある。お隣の韓国でさえ49%というから、アジア太平洋圏では最もSNSの浸透度が低い国の一つという位置づけである。

 いまや日に2億のツイート(つぶやき)が飛び交うツイッターと、アジア太平洋圏だけでも1.2億人のユニークユーザーを抱えるフェイスブック。世界的にみても社会を変えうる活動から斬新な商業キャンペーンまで、いまやSNSから新しい波は生まれるといっても過言ではない。もちろんここ英国でもその影響度は大きい。

 前出の暴動は、ある種、社会的な運動に積極活用された例で、その意味ではチュニジアからエジプトで起こったジャスミン革命などに近い。一方、英国政府観光庁(Visit Britain)が今年スタートさせた「Britain You’re invited~イギリスからの招待状~」キャンペーンは、ロイヤルウエディングから来年のダイヤモンドジュビリー(女王即位60周年)とロンドン五輪までを視野にいれたもので、フェイスブックやユーチューブに特化した展開。英国出身のセレブリティーが、自国の魅力をプロモートしている。

 また、ロンドン中心地・トラファルガー広場での盛大なワールドプレミアが世界中の注目を集めた映画「ハリー・ポッターと死の秘宝 Part 2」の公開イベントでは、ワールドプレミアと同じタイミングで、英国内17の映画館でプレミア試写会を実施。この募集をフェイスブックのファンサイトを通じて行った。

 これ以外にも、欧州大陸と英国を結ぶ特急ユーロスターの「ロンドン五輪まで1年」のイベントもフェイスブック経由。フェイスブックはツイッターとも容易にひもづけられるので、各々のキャンペーンは瞬く間に拡散、成果を出している。今や英国では、フェイスブックの活用はあらゆる業態に浸透しているといえる。

 しかしながら、こと日本に関しては少々状況が違うと思う。震災後、ツイッターを中心にSNSの存在がクローズアップされる機会も多いが、まず圧倒的にフェイスブックのシェアが低い。ここロンドンでも「日本でのフェイスブックの状況は?」とか「日本はフェイスブックでのキャンペーンがうまく成功しないと聞くのだけれど?」といった質問は、実際に多い。BBCのビジネス記者Saira Syed氏のアジア圏についてのリポートによれば、この地域のSNSの位置づけは独特で、まず日本や韓国のように自国のSNSのシェアが高い国が多い。また中国のように政府が干渉、制限している国がある。さらに表立って発言したり、顔を出したりことに抵抗のある国民性が顕著な国が多い。実際、極端に浸透度が高いインドネシアやフィリピンについても、その使われ方は近しい友人たちとの単純な「おしゃべり」であって、欧米のように世相や世論に関して語られるシーンはほとんどないとされている。確かに実名でモノを語ることになれている欧米の感覚からすれば、匿名性が重んじられる日本の事情はかなり異質にみえるだろう。とはいえ、SNSの共時性はまさに世界をひとつに感じさせる大きな魅力であり、強みでもある。今後も、このメディアの担う役割と影響力から目が離せない。

(広告局ロンドン駐在 林田一祐)

暴動を報じた英国各紙

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