間もなく来年の五輪開催まで1年となるロンドンでは、目下街中至る所で改装工事が進められている。欧州居住者向けの第1次チケット発売も終わり、「五輪」の文字を目にする機会も加速度的に増えている。2012年大会のオフィシャル・パートナーには、英国通信大手のBTやエネルギー関連大手のBP、ブリティッシュ・エアウェイズ(BA)といった企業が名を連ねるが、6月に入りBAの欧州向けキャンペーンが話題だ。協賛費4億ポンド(約516億円)とも言われるビッグビジネスとして、昨今の大規模キャンペーンの中では異色といえよう。
また企業のイベント協賛で、ここイギリスで特に派手な印象があるのは、「ヴァージン・ロンドン・マラソン」。2010年大会から14年大会までの冠協賛を決めているヴァージン・グループだが、そのド派手な演出は年々拡大している印象だ。大会会場ではグループ名を配した気球やオブジェが空を舞い、コーポレートカラーの赤がひしめく様子は、まさにヴァージン一色。中継するBBC放送も、さすがにグループ名を連呼こそしないが、要所要所で正式名称を使うのでその効果は絶大である。
さて今回は、欧州においてメディアがイベントにどうかかわっているのかについて述べていきたい。まずこちらで目に付くのは、個別のイベントに対する「オフィシャル媒体」としてのアプローチ。イベント会場などで媒体を提供したり、ブースを構えたりする権利を得るメリットや、コンサート・展示会の限定チケットなどを提供することで、販売部数を伸ばす試みとして恒常的に展開されている。日本と違い圧倒的に即売が多い英国などにおいてはこのアプローチも重要で、人気ミュージカルや展覧会の限定ディスカウント、先行予約などあの手この手での試みが続いている。
欧州では、メディアが催しの「主催側」に付くことがないのは、日本との大きな違いだといえるだろう。その理由の一つに欧州では日本のメディアのような、イベントを企画・運営する機能を持っていないことが挙げられる。興行や展覧会はそれぞれのプロデューサー機関や美術館・博物館側にすべての権利があり、仮にメディアが協力するにしても、「出資」といった金銭的な部分ではなく、報道を通じて集客の面でサポートする、催事成功のためのパートナーであるという認識に負うところも大きい。
一方日本の場合、何か大きな企画展を行おうとした場合には、美術館や博物館と協力して作品の出展交渉をしたり、あるいは引っ越し公演の演目や出演者交渉の一端を担ったりすることは少なくない。また規模が大きくなればなるほど新聞社、放送局、テレビを問わず1社または複数社が主催の立場で参画し、集客動員強化や協賛社のケアに積極的に絡んでいくことになる。その点、欧州の場合、各イベントに協賛スポンサーは100%付くものの、メディアパートナーは付いたり付かなかったりと、様々だ。
現在、ロンドンの国立美術館「テート・ブリテン」で好評を博している「ミロ展」には、オブザーバー紙がメディアパートナーとして付いているが、ヴィクトリア&アルバート美術館の「ヨウジヤマモト展」にはメディアパートナーはなしといった具合である。ミロ展はオブザーバー紙が特集や連載を組むなど関連記事を大量に提供しており、見る前から期待が高まる効果を作りこんでいる。しかし、ヴィクトリア&アルバート美術館がそれに劣るかというと、展示内容の斬新さと話題性でこちらも連日盛況。話題の作りこみもプロデュース側の手腕が問われるところである。
イベント協賛の効果測定の重要な指針は、やはり集客力。そして主催側としては、いかに潤沢な運営資金を確保し、内容の濃いコンテンツを提供できるかが求められる。イギリスやイタリア、フランスなどで抗議デモにまで発展した、文化事業・団体への公的資金カットの議論はますます深刻化している。より民間からのサポートに期待は高まるばかりだ。作り手と買い手からみた「魅力的な」コンテンツとは――? 双方の思惑が錯綜(さくそう)する中で、これは永遠の課題である。
(広告局ロンドン駐在 林田一祐)