ロイヤルウエディングとパロディー

 イギリスはもとより世界中が注目した、ウィリアム王子とキャサリン妃とのロイヤルウエディングは去る4月29日、雨天の心配もよそに、およそ100万人ともいわれる沿道の人々と全世界20億人のテレビ視聴者の見守る中、厳かに、そして爽やかに執り行われた。

 言うまでもなく、挙式当日の各紙はロイヤルウエディング一色、各紙が大々的に報じた。16ページにわたる別刷りで式次第を詳細に網羅したタイムズや、費用のかかる結婚式を揶揄(やゆ)したり、王子とキャサリン妃の関係の経緯を赤裸々に書いたりした、日本では考えられない内容を掲載したサンの付録など印象的だった。

 日本では慶事に欠かせない新聞の祝賀広告だが、こちらではあまり直接的な「お祝い」は見られなかった。カールスバーグやスーパーマーケットの「セインズベリー」、自動車の「ヴォクゾール」などは“CELEBRATE”をキーワードにした原稿を準備、独自のキャンペーンやセールを訴求したが、日本的な「謹んでお祝いを・・・」のようなものは、ついぞ目にしなかった。やはりここは国民性の違いであろう。

 そのような中で今回のウェディングを強力に意識したキャンペーンを実施したのが、ドイツに本社を置く移動体コミュニケーション企業のT-モバイル。同社はボーダフォンに続く規模で、昨年は同業のオレンジ社を買収するなど果敢な攻めの姿勢にある。今回の内容は、ロイヤルウエディングの“主役たち”15人のそっくりさんたちが、バージンロードで祝い踊るというもので、ユーチューブとフェイスブックを軸に展開。同社の訴求する「life’s for sharing」キャンペーンの一環として実施された。
とにかくキャストがよく似ていることも話題になったし、テーマとの親和性も絶妙で、制作したサーチ&サーチによれば、リリース直後の48時間で260万ビューを獲得。1週間で550万、ウェディングから始まった連休が終わった5月5日午前10時半時点では、実に1,900万を超える数字をたたき出したそうである。広告業界の批評家筋の意見では「よくできているが、何が良いのかわからない」「これはアップル社の広告?」などと皮肉ったものも聞かれたが、この数字を見る限り、期待通りあるいはそれ以上の反響となったと思われる。皇室までをこうも大胆にパロディーにしてしまうとは、なかなかのどんよくさである。

 一方で、国家連合の一翼を担うオーストラリアでは、この慶事をパロディー化した番組を放映しようとした地元局が、権利元のBBCから番組での映像使用を却下されたのだが、この「パロディーの定義・許容性」というのも複雑である。

 さて、ウェディング当日。午後は、街中でストリートパーティーを行うことが推奨され、いろいろな場所で飲んで歌っての騒ぎが散見された。パブやレストランでは英国旗を掲げ、大音量の音楽を流しての大宴会も珍しくなかった。果たして皆がみな、お祝いをしていたかどうか(単なる便乗飲み?)は定かではないが、それでなくてもビール、アルコールの大好きな英国人。ハッピームードが国中に漂い、盛り上がったのは事実だ。王室制度に反対する団体や個人が検挙されもしたし、私のまわりの王室支持派と非支持派の間でもいろんな意見が出て、楽しませてもらった。

 英国王室の新たなヒーロー、ヒロインになるであろう、このふたりの慶事は、この先、ダイヤモンドジュビリー(エリザベス女王在位60周年)、ロンドン・オリンピックと続く、“元気なイギリス”をアピールするには、十分すぎる輝きを放ったといえよう。

(広告局ロンドン駐在 林田一祐)

ロイヤルウエディング当日、パブに集うロンドンっ子たち ロイヤルウエディング当日、パブに集うロンドンっ子たち
ユニオンジャックで埋めつくされた、目抜き通りのリージェントストリート ユニオンジャックで埋めつくされた、
目抜き通りのリージェントストリート