欧州における震災報道と原発問題への評価

 「希望」と「絆(きずな)」。今回の震災を経て、海外メディアなどでよく取り上げられる日本語である。(もちろん「FUKUSHIMA」も一気にスタンダードワードとなっているが・・・)。「希望」はさまざまなチャリティー活動のアイコンとして登場。たとえばイギリスの服飾ブランド「ハケット(HACKETT LONDON)」は、「希望/HOPE」と題した日本支援のキャンペーンを展開。オリジナルのポロシャツをチャリティーとしてセールスし、募金する活動を行っている。一方「絆」は、日本国政府が震災1カ月のタイミング(4月11日)で、海外各紙へ出稿した「支援感謝の広告」に使われたキーワード。インターナショナル・ヘラルド・トリビューンやフィナンシャル・タイムズ、ウォールストリート・ジャーナルなどに掲載された。これまで日本のイメージとして愛された漢字は「桜」や「愛」だったが、新たなイメージが加わったといえるかも知れない。

 今回の災害を通して頻繁に評されることだが、「日本人が実に秩序正しい」「犠牲の精神を重んじる」という報道を目にする機会が多い。計画停電(rolling power cut)の実施は、暗い中でも犯罪行為が起こらない日本の治安の良さの裏返しであり、被災地で皆がみなを思いやる姿は、例えばガーディアン紙では「大和魂」や「神道」といった単語と併せて解説していた。

 もちろん友好的な報道がある半面、原子力発電所への対応や情報開示の少なさについては厳しい報道もあるイギリスのメディアは比較的冷静だが、イギリス以外の多くの欧州大陸の国によっては自国の原発政策と照らしてか、かなりオーバーな報道も目立つ。「レベル7」を日本が宣言するかなり前から、ドイツやフランスではこのレベルに言及する報道が目についた。実際、これらの国の人々と話をすると「日本全国が、地震で壊滅的な状態になっているのか」「東京は放射能汚染地域にあるせいで、全く機能していないのではないか」と問われるのも、日常茶飯事である。しかし多くの人が複数のメディアの報道を自分で比較し、判断しようとする姿勢が見受けられる。これも欧州の気質であると、今回のことで強く感じている次第である。

 日本政府が外国メディアでの誤った報道を指摘、訂正を求めているということが先日報道されたが、私のまわりの例をみてもレベルの差こそあれ、世界中でそれに類することが起こっているのだろうと思い、改めて情報発信の責任と難しさを考えさせられている。

フードショップ「itsu health & happiness」 フードショップ「itsu health & happiness」

 そしてもう一つ懸念されている日本製品や産物への風評被害について。残念だが、ここロンドンでも、一つの例を目にすることになった。ロンドンを中心に、レストランとすしなどの持ち帰り弁当を提供する店舗を展開するフードショップに、「itsu health & happiness」という店がある。ロンドンではかなりメジャーな部類に属するこの店で、写真のようなOOH広告が掲出されたのは4月の初頭。冒頭 「Kohei Appeal」というのは、この店で長く働いている日本人従業員のKoheiさんの親類が被災したことを機に、日本を支援する機会を作りたいと考え、彼の名を冠して始めた日本支援のキャンペーン。店の常連などが小銭からお札まで幅広く募金に協力してくれているそうである。ただメッセージの中段になると「日本からの食材は使っていません」という内容が続く。「すし」のテークアウトを看板に掲げるこの店にとって、今回の震災の影響、特に放射能汚染に関しては利用者からの懐疑的な質問も多く、この表示に至ったそうである。

 積極的に支援を訴えたい半面、店の利益確保のためには品質保全のアピールも必要。逡巡(しゅんじゅん)したうえでの結論だと思うが、ある意味、これがひとつの現実なのであろう。「日本に渡航する際旅行保険に加入できない」「日本で発行したクレジットカードの利用を断られた」などといったうわさとも事実ともつかない情報が流れるのも、ある程度は仕方ない。やはり日本はここ欧州からみれば遠い国であるし、比較的情報は多いとはいえ、まだまだ知られざる部分の多い国なのである。

 震災以来、朝日新聞に掲載された記事や写真は、数々の国で転載・紹介されている。私のところにもイギリスはもとより、オランダやブラジル、ドイツなどたくさんの国から記事や写真の照会がきている。「写真の女の子に物資を送りたい」「写真の男の子のメッセージは親に届いたのか」に始まり、チャリティーの写真展をやりたいので写真を提供してほしいなど内容や、問い合わせをいただく方もさまざま。ただ共通しているのは「日本を応援したい」という強い思い。文字通り、世界との「絆」に「希望」を実感する日々である。

(広告局ロンドン駐在 林田一祐)