Don’t give up, Japan. Don’t give up, Tohoku.

 東日本大震災の情報は、欧州でも連日報道が続いている。筆者が震災の第一報を知ったのは出張先のベルリンだったが、空港の待合室で流れるニュース画像を、食い入るように見る各国の空港利用者が後を絶たなかった。
そして地震から一夜明けた12日、英国各紙の1面の見出しには次のような文字が並んだ。

The Guardian: Huge quake devastates Japan (巨大な地震が日本を破壊)
The Times: Waves of destruction
(破壊の波)
FT Weekend: Quake and tsunami devastate Japan
 (地震と津波が日本を破壊)

  いずれも仙台市や名取市の被害を伝える写真とともに1面を構築、中面では地図や写真を多用した解説ページを設け、被害の大きさを強調。この時点ですでにマグニチュード8.9の文字が紙面には記載された(同時刻の日本での公式発表は8.8)。

 翌13日の1面は一転、「地震」「津波」から「原子力発電」へといっせいに見出しが変わった。原子力問題については世界中が注視するところだが、推進国、非推進国の意見、識者の展望を交えながら、報道は加熱していった。この原稿を書いている時点でも、スイスが国内3カ所で予定していた原発の改修・建設計画を当面凍結することを発表したし、ドイツでも同様の議論が過熱。国内17基のうち、稼働が早かったものから7基を3カ月間稼働停止にする判断を下した。もちろんイギリスも例外ではなく、いまこの瞬間も福島原子力発電所の映像が繰り返し流れている。

 そのような中、まったく異質の紙面をつくったのがインディペンデント・オン・サンデー紙(The Independent on Sunday)だ。日の丸を模したデザインに、日本語で「がんばれ、日本。がんばれ東北。」の文字。そして英語で次のような文章が続く1面は、他とはまったく異なり、強いメッセージを伝える紙面だった。

 Don’t give up, Japan/Don’t give up, Tohoku/A nation’s rallying call/The death tall is at least 1,700, the economy has been hit for billions, and yesterday an explosion at a power plant threatened nuclear meltdown./But now the country is fighting back from its tsunami hell
(がんばれ、日本。/がんばれ、東北。/国をあげてのエール/死者は少なくとも1,700人にのぼり、経済的打撃は数兆円にのぼるであろう。そして昨日は発電所の爆発で、原子炉の炉心溶融の恐れさえでてきた。/しかしこの国はいま、津波の地獄から復活しようとしている。)(2011年3月12日付)
*英語で“billion”は“兆”。

 同紙はロシアの富豪アレクサンドル・レベジェフ氏が、わずか1ポンドで購入したことで話題となった週末紙で、最新の発行部数は約15万2千部(2011年2月、ABC数字)。部数こそ少ないが、インディペンデントのネームバリューは大きい。その1面でメッセージを掲げたこの紙面は早速BBCで取り上げられたし、もちろん日本の各メディアも応援の証として報道した。インターネットやツイッターでも広く伝えられたので、目にされた方も多いのではないだろうか。「がんばれ、日本。がんばれ、東北。」・・・このフレーズを英国の紙面で目にするとは夢にも思わなかったが、これはテレビ番組収録中に被災したタレントのサンドウィッチマン・伊達みきお氏のブログからインスピレーションを受けたそうだ。
新聞の1面といえば、まさにその日の顔。このチョイスを決断するには、たいへんな勇気が必要であっただろうし、実際、編集会議では激論が交わされたそうだ。事態は日を追うごとに厳しさを増し、在英の日本人は言うまでもなく、さまざまな国の人々が心を痛め、一日も早い安全確保と復興を願ってやまない。

 地震発生から4日後の3月15日は、ロンドン五輪まで500日の節目だった。市の中心部にあるトラファルガー広場では、カウントダウンのモニュメントが登場し、時を刻み始めた。そしてそのすぐそばにあるピカデリーサーカスでは、”Pray for Japan”と大きく書かれたシートに、たくさんの人々が祈りの寄せ書きをするイベントが行われた。五輪で選手みんなに送られる声援「がんばれ、日本」。いまこのフレーズが、ここイギリスから日本全体へのエールとなっている。

(広告局ロンドン駐在 林田一祐)

日本へのエールを一面で掲載したインディペンデント・オン・サンデー紙<br/>(2011年3月12日付)

日本へのエールを一面で掲載したインディペンデント・オン・サンデー紙
(2011年3月12日付)