さまざまな点で日本と異なる、英国の映画広告

 2月は世界的に映画界が最も華やぐ季節。アカデミー賞をはじめ、様々な映画賞が発表される。英国映画界最大の栄誉とされるBAFTA Film Awardsが、現地時間の13日に発表となった。ちなみにBAFTAとはBRITISH ACADEMY OF FILM AND TELEVISION ARTSの略で、この賞は日本では「英国アカデミー賞」と称されることが多い。米国のアカデミー賞に比べる知名度はやや劣るが、英国ではBBCが中継するなど、ビッグイベントの一つとなっている。賞の設定にも、「英国映画賞」などオリジナリティーがある。今回のノミネートを米国版と比べてみたのでご覧いただきたい。(赤字は受賞作)

 今回の目玉は、すでに世界中で高い評価を得ている「英国王のスピーチ(The King’s Speech)」だ。下馬評どおり圧倒的な支持を受け、多くの賞を受賞した。この作品は英国とオーストラリアの合作で、監督と言語療法士を演じたジェフリー・ラッシュがオーストラリア人、主演のコリン・ファースとヘレナ・ボナム=カーターが生粋の英国人である。さらに英国王ジョージ6世を題材とした完璧な「お国モノ」。米国のアカデミー賞にもノミネートされ、連日、あらゆるメディアが、これでもかと関連報道を行った。

 英国では映画産業が手厚く保護されており、制作や配給を政府系機関のUK Film Councilがサポートしている。またBFI(British Film Institute)という機関では、膨大なアーカイブを作成したり、利益が見込みにくい他言語の作品を紹介したりと、多角的な活動を展開している。こういった団体を経由して、日本の作品も頻繁に上映されており、今回のアカデミー賞外国語映画賞部門に日本選出として推薦された「告白」も2月半ばから限定公開されている。

 劇場側もシニア料金や学生料金、平日料金など様々なレートを提供して集客に努めている。日本とまったく異なるのが、通常料金が劇場の所在地によって違うこと。公開中の「英国王のスピーチ」の場合、ロンドン繁華街では大人15.6ポンド(約2,000円)だが、そこから30分ほど離れたところだと10.4ポンド(約1,350円)になる。もともと多くの分野で「定価」の概念がない国なので違和感はないようだが、全国共通料金に慣れた我々にはちょっと不思議な気もする。

 映画広告も新聞やフリーペーパーに始まり、駅張りやバス停、路面バスの壁面を使ったものなど、様々な媒体で展開されている。日本の場合、公開日が金曜か土曜のケースが多いので、特に新聞広告は金曜日の需要が高いが、こちらはその他の曜日に掲載されるものも多い。もちろん毎週金曜日に「Film & Arts」という別刷りを発行しているガーディアンのような媒体もあるので、そちらへの広告掲載もあるが、曜日に関係なく広告掲載の需要がある。これは、就労形態の違いに要因があるようだ。英国ではフルタイム以外にも週2、3日といった就労スタイルも多く、このタイプの人たちは平日に映画鑑賞を行う。しかも平日の映画料金のほうが割安だったりするので好都合らしい。

 新聞各紙は読者限定試写会を実施したり、原作本のオーディオブックを無料提供したりと、新聞の固定読者を獲得するためのツールとして映画を活用している。記事量も多く、そこで語られる作品評価は、そのまま広告原稿に転用されている。実際、辛口の批評だと大作であろうが話題作であろうが、「星1つ」という評価がされている場合もあり、このあたりが読者の信用を勝ち取る礎になっているのであろう。
 新聞広告はクオーターページのスタイルが普通で、細かく公開劇場が列挙されているものはあまりない。ほとんどの作品が大手劇場チェーンやシネコンで公開されるので、その劇場ロゴが入っていたり、「×月×日公開。その後、順次全国公開」というコピーが配されている。ロンドンと地方で公開日が違うケースが多いためだ。これも日本とは異なる点。

 目下、興行成績も絶好調の「英国王のスピーチ」だが、バレンタインデーは通常のものとは異なり、キングとクイーンの仲むつまじいショットがあしらわれた広告が一部掲載された。この辺の時事ネタやユーモアを交えた原稿を作って掲載できるのも、大量かつ継続出稿のなせる業。映画の雰囲気を伝えるには効果的な手法だったのではないだろうか。

(広告局ロンドン駐在 林田一祐)

「英国王のスピーチ」の屋外広告

「英国王のスピーチ」の屋外広告