欧州は、クリスマスが家族のビッグイベント。ホームタウンに帰省して家族と時間を過ごすというスタイルは、日本の正月そっくり。ロンドンはクリスマス(25日)とボクシングデー(26日)は公共交通機関もほぼお休みで、この日ばかりはデパートやショップも閉店する。そして、クリスマスの連休が終わると、怒濤(どとう)の冬のセールがスタート。早朝から人々が詰めかけ、目抜き通りのオックスフォードサーカスやナイツブリッジは文字通り人の波となった。特に今回は年明けからVAT(日本の消費税のようなもの)が20%に引き上げられるとあって、「買うなら年内」という気分も後押ししたようだ。そんな文化の違いもあり、ニューイヤーの新聞も日本の「迎春」モードとは大きく異なる。
今回は各紙の正月紙面を紹介しよう。
2011年は元日が週末だったこともあり、通常の週末別刷りと正月紙面が同時に発行された。こちらでは土曜日に大量の別刷りが封入されるのが常。CDや本など多種多様な「おまけ」も付いてくるのだが、その意味では逆に、正月紙面は比較的穏やかな体裁だった気がする。
オンライン版の全面課金で話題を呼んだタイムズの別刷りは、「40歳になって、いかに太らないようにするか」といった見出しで、女性向けのエクササイズを提案。また、映画「英国王のスピーチ」で国王の妻を演じた女優ヘレナ・ボナム=カーターを特集したオリジナルマガジンも付いて、女性を意識した紙面づくりが印象的だった。インディペンデントは「2011年ホリデーガイド完全版」と題したレジャー特集とマガジン「明日の世界を担う指導者たち」を封入。ガーディアンの別刷りは「2011年、どうやってより良い人になりますか?」「『幸せ』を始めよう」といったライフスタイル提案型の内容。大衆紙へ目を向けると、デーリーメールは「パズル」と他紙より圧倒的にボリュームの多いエンターテインメント特集。週末恒例のテレビ番組表などが組み込まれているが、新年用に豪華版での掲載を行った。
サンもテレビ番組表を中心に据えたエンターテインメント特集だったが、本紙内でもスポーツやテレビ業界ゴシップをふんだんにフォローするなど、マードック王国のプリントと電波の相互乗り入れの意図が伝わる紙面づくりだ。
記事の内容で各紙とも共通していたのが「パズル」。本当にイギリス人はパズルが大好きで、地下鉄の中でも一生懸命に取り組んでいる姿を見かける。正月紙面ではこのパズルを、程度の差こそあれ拡大して掲載。クロスワードが中心だが、各紙趣向を凝らした展開を行った。
それでは新聞広告はどうだろう。日本の正月紙面に登場する特別なデザインのものや「謹賀新年」のようなものは、ほとんどない。目に付くのは、セール中のデパートやショップ、車両、旅行といった広告主。「セール、終わっちゃいますよ!」といった雰囲気のコピーが踊るなか、「Happy New Year」を冠したのは、セール中のファッションブランド、ローラ・アシュレイくらい。
2011年ならでは、といった目線でみると「20%還元」「20%ディスカウント」とVAT率アップに掛けた表現や「VATはそのまま!」といった誘い文句が目に付いた。このあたりの金銭感覚は万国共通のようだ。
掲載量ではセール関連に続いて多かったのが、旅行もの。早期割引でホテル代や航空運賃が10~30%程度安くなるのは当たり前の欧州において、次のターゲットはすでに夏のバケーションだ。今年はロイヤルウエディングのお陰で4月に4連休があるものの、もともとイギリスは日本に比べてかなり祝日が少なく、その意味では夏は最重要シーズンのひとつ。エアラインやホテルなど、大小様々な広告が紙面を彩った。行き先は南アフリカやトルコ、スペインなど様々だが、日本が出てくるのはまれだ。しかし今年は、1日付ではないものの、「温泉王国、九州」というコピーを配したエアフランスの広告が。「温泉」という響きはヨーロッパでも人々を魅了しており、北欧や東欧諸国の観光キャンペーンではしばしば登場する。そう考えると、羽田の拡張を機に、今年は「温泉→日本」が新しいトレンドになるかもしれない。
※VAT…付加価値税(Value Added Tax)の略。日本の消費税のようなもの
(広告局ロンドン駐在 林田一祐)
イギリスの各紙正月紙面