ロイヤルウエディングに沸くロンドン

 この一カ月間、何かとイギリスが国際報道に登場する機会が多かった。11月はまず地下鉄の24時間ストライキで市内は大混乱(今年いったい何回目だろう)。また月半ばにはキャメロン政権の緊縮財政案に対する学生デモが発生。大学の授業料値上げ反対を意図したものだが、一部暴徒化するシーンもあり大きな話題となった。そして11月16日、英国ロイヤルファミリーの若きプリンス、ウィリアム王子と、かねてからうわさのあったケイト・ミドルトンさんの正式な婚約が発表され、国中は一気に色めき立った。

 さて、いまだ冷めることなく報道されつづけているロイヤルウエディングであるが、婚約発表があったのが16日の正午前(英国時間)。以後、BBCは文字通りエンドレスにこの話題を放送。夜半には仲むつまじい若きカップルのインタビューも放送され、多くの注目を集めた。
 長くこの仕事をしていると、この手の話題ですぐに気になるのが祝賀広告。発表が午前中だったので、朝刊には間に合うかと思い、翌日の朝刊各紙をめくってみたものの、「そもそもそのような発想がイギリスにあるのか? いわんかな、それっぽい広告は・・・」と思っていた矢先に、タイムズ紙上で関連したものを発見。内容はというと「ロイヤルウエディングが行われるのは何月でしょう?」とうたったブックメーカー(合法の賭け会社)のもので、広告デザインには、さもふたりが会話しているかのように「ダーリン、雨じゃないといいわね」「少なくとも賭けた分は取り戻したいよね」というコピーが続く凝りよう。このユーモアとセンスには脱帽である。この会社はこれ以外にも「式の会場は?」「ケイトのドレスをデザインするのは誰?」「ハネムーンはどこ?」といった結婚にまつわるありとあらゆることを賭けの対象にしている。まさにブックメーカー発祥の地といわれる英国の面目躍如である。

 もちろんビジネスマーケットも大盛り上がり。マグカップや記念コインといったたぐいはさっそく生産体制に入り、早いところでは発表直後の週末から第1弾が店頭にならんだ。イギリス国内で生産を進めるロイヤル・クラウン・ダービー社では、かつてふたりの破局が伝えられた際にも、すでに発売のスタンバイをしており、今回はそのバックアップを元に即時生産態勢へ入ったらしい。一方、海外で生産しコスト的メリットを打ち出す他ブランドでは、2011年早々には店頭に並べられるよう準備。その際には、結婚式が挙げられる会場のイラストも併せてデザインするそうだ。その他、結婚関連業界や旅行業界など、今回の慶事に大きな期待を寄せる業界は少なくない。実にその経済効果たるやおよそ6億2千ポンド、日本円にして約840億円という試算も出ており、降ってわいた商機にこぞって参戦する気配である。

 旅行業界がとくに期待しているのがアメリカと日本。兼ねてから英国王室に関してこの二つの国からの関心が高いのだそうだ。実際、婚約発表の様子は日本でも大々的に報じられたようだし、バッキンガム宮殿の周りには日本のテレビ各局が急行して取材を行っていた。夫妻の新居が構えられるノースウェールズ地区への経済効果も格段に大きくなると予測され、観光団体ビジット・ブリテンでは「ロンドンのみならずイギリス全体に与える経済効果は膨大」と意気込んでいる。さらに、英国では来年からビッグイベントが目白押し。2011年春のロイヤルウエディングの次は、2012年初夏に予定されている「ダイヤモンドジュビリー」。女王陛下在位60周年のお祝いだが、この日は特別な祝日が設けられ、さらに連休に仕立ててお祭りムードを盛り上げる。そしてロンドン五輪とパラリンピックの開催。設備投資やその他で、多額の景気刺激策となることが期待されている。

 とはいえ、もちろんよいことばかりではない。そもそもイギリスの財政赤字は深刻で、キャメロン政権は必死の体で国防費の削減や大学授業料の値上げなどの緊急策を発表するが、ことごとく大きな反対運動を招くなど前途多難。来年には付加価値税(日本の消費税に相当)も現行の17%程度から20%へ引き上げられるが、こちらのマーケットへの影響も悩みの種である。もちろん王室へ支給される王室費もすでに削減対象となっているが、今回の慶事で新たに負担が強いられる額も相当なはず。その意味では国民全体が手放しで大喜び・・・とはなれない側面があるのもまた事実である。

 しかしながら今回の婚約は、おおむね好意的に受け止められている話題であることには変わりはないし、今後もまだまだネタにはつきないだろう。まさにロイヤルウエディングに沸く英国だったが、私個人や友人の間では「来年は祝日が1日増えるのでラッキー」というのが、実はホットな話題。ウエディングの当日は特別に祝日になるのだそう。日本と比べて圧倒的に祝日の少ないイギリスにあって、この一日はとても貴重だ。 ウエディングの日取りと場所は2011年4月29日、ロンドン中心部にあるウエストミンスター寺院で執り行われることに決定したが、来年のゴールデンウイークにロンドンを訪れる方はラッキー? それとも混雑要注意?

(広告局ロンドン駐在 林田一祐)

ウィリアム王子の婚約を取り上げる英国各紙

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