今年の夏はFIFAワールドカップで世界中が沸いた。日本代表の善戦は、ここロンドンでも大きく取り上げられた……と書きたいところだが、さすがは「サッカーの母国」イングランド。予想外の苦戦と敗退、そして無念の帰国を、連日メディアというメディアが報道し続けた。2010年7月5日付の「朝日新聞GLOBE43号」にも触れられていたが、イングランド戦があろうものなら、その時間はぱったりと電話も鳴らず、得点すれば地鳴りのような歓声が街中からあふれるというものすごい入れ込み具合であった。
いまや視聴人数やその波及効果で五輪をしのぐとさえ言われるFIFAワールドカップ。今回の大会ではなじみの薄い企業の広告露出を目にした方も多いのではないだろうか。その筆頭が英利集団ことインリ・グループ(Yingli)だろう。ソーラーパネルを生産する中国の企業で、国際市場での認知拡大を担って、大会直前にスポンサーへ参画。中国企業としては初のワールドカップスポンサーとなっている。同じくブラジルの食品企業セアラ(Seara)やインドのIT企業サティヤム(Mahindra Satyam)も「初参戦」。まさにBRICsパワー全開である。
ブルームバーグによると、前大会時から比べてBRICs4カ国(ブラジル、ロシア、インド、中国)の株式市場は軒並みインデックス株価が急騰。上海市場で39%、ブラジル71%、インド65%というから、日本を含め世界中でマーケットが低迷する中、その勢いたるやすさまじい。活況な経済地盤に支えられ、インリは現在、世界シェア7%。今後、先行しているドイツを中心に欧州各国でシェアを拡大する予定だというが、すでに今回のワールドカップスポンサー料に見合った新規契約が見込めるそうである。まさにワールドカップ効果であるが、これも開催地が欧州とほとんど時差がない南アフリカだったことや同社の事業拡大のタイミングと合致したことなどすべてがはまったうえでの投資結果だったのだろう。
そんな世界中がお祭り騒ぎになっている裏側で、メディアでも、熱い話題を2点ご紹介しよう。
まず、高級紙「タイムズ」の本格的なネット課金の開始について。「課金」については、世界中の新聞社が注目、研究している話題であるため、今後の反響を見て、本コラムで触れたいと思う。朝日新聞で連載中の「メディア激変」でもこのテーマに触れているので、機会があればぜひご一読いただきたい。
もう一つが、原油の流出で大問題となっている英国企業BPによる、米国での大規模な企業広告キャンペーン。BPの原油流出は、その被害規模の大きさや対応について国家元首を巻き込む大問題となっているが、BP側の示した初動対応やコメントへの批判が続いている。
そのような中、同社は「ニューヨークタイムズ」や「ワシントンポスト」など米国の有力紙に企業広告(全面広告)を掲載し、懸命な取り組みをアピールした。さらに、リスティング広告や動画広告などを使って、現在もメッセージを配信し続けている。ところがネットやツイッターなどではこの巨額の費用をかけたキャンペーンに対して批判的な指摘もあり、某環境団体などは各紙の料金表を参照し、「BPはおよそ560万ドル(約5億円)をキャンペーンに投下。広告を掲載した新聞社は特別料金を提示して支援」などと指摘する事態になっている。その資金があるなら環境浄化につかうべきだという主張である。
一方で、取り組みを広く知らしめるのは広告の重要な役割。広告の持つ意義・使命とタイミングの重要性を改めて感じた一例となった。
FIFAワールドカップは熱狂のうちにスペインの初優勝で幕を閉じたが、早くも4年後に思いをはせる今日この頃。だがその前に、ロンドンは2012年の五輪開催地。街中いたるところで工事や化粧直しが始まっているが、こちらもまもなく開会700日前。少々気が早いが、熱いロンドンの夏に期待したい。
(広告局ロンドン駐在 林田一祐)
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