クリエーティブに新しさを求め続ける英国の新聞広告

 与野党三つどもえの戦いとして注目を集めたイギリス総選挙は、戦後初めての連立政権を、保守党のキャメロン首相が誕生させるかたちで終了し、新しいスタートを切った。43歳のキャメロン首相を筆頭に、内閣メンバーの平均年齢は約51歳。日本人からすると、ずいぶん若々しい印象を受ける顔ぶれである。選挙当日は、22時の投票締め切りと前後して、各テレビ局が選挙報道特別番組をスタート。放送開始早々、「保守党優勢」の速報が出る。しかし、日本のように刻一刻と当選確実が打たれていくのとは違い、開票作業に時間がかかった。内閣発足までの間の党首の動きや専門家の分析が刻々と更新され、番組は盛り上がりを見せた。
その日、選挙報道に関して、日本では見慣れない広告を空にみつけた。地元民放局「チャンネル4」の特別番組の宣伝だが、なんとヘリコプターから巨大な番宣のフラッグを垂らしてフライトするというもの。聞くところによると、こちらでは比較的よく目にする手法だそうだが、日本ではまず役所の許可がおりないだろう。実際、過去には墜落事故などもあったらしい。筆者もたまたま見かけたのだが、果たしてどの程度の市民が目撃できたのだろうか。

 さて、最近の新聞広告で目をひいたものといえば、4月27日付のデーリー・テレグラフ紙で実施された「シースルーラッピング」だ。広告主は、大手金融機関のHSBC。表紙からTurnover(めくってください)、裏からはReturn(戻ってください)と書かれた半透明の用紙で本紙がラッピングされている。よくみると「でもHSBCの役立つ情報をお読みいただくためにビジネスセクション(別刷り)では手をとめてください」といった趣旨のコメントがプリントされ、別刷り内には特集が展開されているという凝った内容で構成されていた。
前回報告したインディペンデント紙の例といい、英国ではラッピング広告自体にはあまり抵抗がないようだが、今回のものはデザイン的にもコスト的にも興味深いものだった。シースルー用紙を使ってのラッピングは、英国初の試みである。「初」といえば、この6月には「3D新聞」なるものが、某紙で準備されているとの情報もある。やはり「初」という響きはメディアに携わる限り、永遠に魅力的な要素であるのは万国共通のようだ。

↓HSBCのシースルーラッピング広告を紹介したウェブサイトの記事
http://www.campaignlive.co.uk/news/999424/Daily-Telegraph-dons-HSBC-translucent-cover-wrap/?DCMP=ILC-SEARCH

ヘリコプターに垂らされた「チャンネル4」の番組宣伝のフラッグ

ヘリコプターに垂らされた「チャンネル4」の番組宣伝のフラッグ

 話は変わるが、5月12日から14日にモスクワで開催されたIAA World Congressに参加した。大会テーマは「Change: Consequences(変化とその影響)」。会場は世界遺産「モスクワのクレムリン」の中にあるクレムリン大会宮殿に用意され、長大な歴史漂う雰囲気の中、WPP CEOであるサー・マーティン・ソレル氏の基調講演を皮切りに、P&GやHPなどの広告主も含め、広告に携わる各方面からのプレゼンテーションが展開された。総じてオンラインやモバイルの新技術、ニューメディアを介したアプローチや地域的な新マーケットの開拓は欠かせないとしながらも、この変化の時期をいかに効果的に渡っていくかという判断の重要性を感じる大会であった。

(広告局ロンドン駐在 林田一祐)

IAA World Congressの会場(2010年5月 モスクワ)

IAA World Congressの会場(2010年5月 モスクワ)