新聞社サイトの有料化~英国で今模索されていること~

 今年は、英国の新聞社にとってもニュースサイトの有料化へ向けた試金石の年となりそうだ。全国紙『タイムズ』と『サンデー・タイムズ』は、サイトの全面リニューアルに併せて有料サービスを今春にも開始する。他社も追随するかもしれない。
 有料ニュースサイトとはどんなものか、試しに購読してみた。英経済紙『フィナンシャル・タイムズ』(以下、FT)のサイトFT.comで、2007年から現行の課金システムを導入し、成功事例の一つとされる。2009年にはFT.comの定期購読収入が前年比30%を超えた。

 FTは現在積極的な販売政策を進めていて、紙面の宅配とFT.comの標準パッケージ(モバイルや電子新聞などのサービスを含む)を4週間のお試し期間中1ポンド(※)で購読できる。私もトライアルを申し込んでみると、すぐに新聞の宅配が始まった。朝自宅に届く紙面を玄関越しに見つけると、職業柄かとてもうれしかった。
 このプロモーションは、新聞を定期購読すると、FT.comの標準サービスも無料で受けられるというもので、どちらかと言えば、オンラインは付加価値的なサービス提供との位置づけだ。ちなみに通常は1週間10.02ポンドでの年間購読が必要で、4週間後にはFTのフルパッケージを日常生活の中に取り込むかどうか決断することになる。

 FT.comは無料でアクセスできる記事もあるが、ごく簡単な速報記事ぐらいしか読めない。コメントや解説など掘り下げた内容を読み進めようとすると、“Pay wall”(課金の壁)が立ちはだかり、その先をちらりと見せて読めなくしてしまうスクリーンが憎い。ただ、いったん購読を申し込めば、分析・解説ものもかなり掘り下げた内容まで読むことができる。紙面とはレイアウトや記事の構成が異なるが、解説の深さは同様に期待でき、かつ紙面よりも早くアップされることが特徴だ。
 FT.com単体での定期購読も可能で、有料購読の形態は、アクセス頻度や受けたいサービスの内容によって選択できるという分かりやすい料金体系になっている。ちなみに標準パッケージで現在1週間3.29ポンドだ。

 さて、英国でのニュースサイト有料化の主な論点はやはり、①無料に慣れたユーザーが受け入れられる課金のスキームは何か、②課金可能なコンテンツは何か、③広告ビジネスへの影響、だ。
 ①は、有料・無料配信を組み合わせた「ハイブリッドモデル」が主流となる気配となっている。ユーザーにとって課金のしくみが分かりやすく、透明度が高いことがその理由だ。しかし、最初は課金の垣根を低くし、段階を経てお金を払うことに慣れてもらうよう導線を引くべきだとの議論も多い。ちなみに、メディア業界誌の調査によると、英国の77%のユーザーは、「ニュースサイトが有料化されるならアクセスしない」と答えている。
 ②は、経済・スポーツといった専門性の高さやニッチ分野であるかどうかが問われる。記者発表や企業リリースものを有料化するのは、もはや難しいというのが大勢だ。また、デジタルコンテンツの無料配信を積極的に推進する英公共放送BBCの存在が、新聞社サイト有料化の正否を分ける、という指摘も多い。
 ③は、有料化によりサーチエンジンからのリンクを切り離すことで、ニュースサイトへのアクセス数が減るのではという懸念もあれば、購読者プロフィルを活用したターゲティングが可能になるといったメリットを強調するなど、議論が分かれている。

 ニュースサイトの記事にお金を払うという習慣は、新聞読者の間で定着するだろうか。私自身、FTトライアル期間終了後購読を継続するかしないか、与えられた4週間じっくり考えたい。(広告局ロンドン駐在 川田直敬)
(※)英ポンド 143.32円(2010年2月24日現在)

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