クリスマスシーズンを迎え、ロンドンの街はショッピングやパーティーを楽しむ人々で大変なにぎわいだ。景気が上向いてきたようにも感じる一方で、ビジネスをする側に目を移すと、小売店の間で繰り広げられる価格競争は、激化の一途をたどっている。特に顕著なのが、スーパーマーケットで、今やお値打ち価格を提供すること自体が企業ブランドを構築する上で、柱となっている。まさに、体力勝負の様相を呈している。
そんな中、全国チェーンの1つ、モリソンズが価格競争でしのぎを削りながらも、実利と社会貢献を並行して追求するコーズマーケティングを展開し、広告業界で注目を集めている。
昨年立ち上げた「Let’s Grow(育てよう)」キャンペーンが、それだ。教育現場での「食育」をサポートするというアイデアで、食卓に並ぶ食べ物はどうやってできるのかを、農業体験を通じて子供たちに学んでもらおうというのが趣旨だ。同社の調査によると、英国に住む児童のうち10%は野菜がどのように育てられるか全く知らなかったという。
英国で著名なガーデナーを広告キャラクターに起用し、新聞、テレビ、雑誌、OOH(屋外)、オンラインの各種メディアで広告を展開。児童や親、学校教員をメーンターゲットに、オンライン上でプログラム参加登録することを促した。
キャンペーンプログラムでは、モリソンズのお店で10ポンド分の買い物をするとバウチャー(クーポン)が1枚もらえ、プログラムに参加登録した小学校は児童らが集めたバウチャーの数に応じて野菜の種や農具に引き換えることができる。農具にはビニールハウスも含まれている。
児童や親が学校に働きかけ、学校側もそれに応えた結果、2008年度のキャンペーンでは、英国全小学校の85%に当たる15,500校が参加。3,900万枚ものバウチャーが発行され、多くの児童たちが農業体験を通じて食の由来と尊さを学ぶことになった。また、児童らにPR活動の一役を担ってもらうというアイデアも奏功し、授業の様子はテレビ番組や地方紙でも紹介されるなど大きな反響を呼んだ。
バウチャーを発行するスキームや、子供を起点としてマーケティングを仕掛ける手法は目新しいものではない。しかし、「食育」という社会的意義のあるテーマを基軸に広告活動、販売活動そして広報活動を有機的に結びつけたところが成功の要因だ。参加者には収穫の喜びと、新鮮な食材の素晴らしさを伝え、「新鮮な食料品を低価格で提供する」というモリソンズの企業理念を直接的にも、間接的にも発信した。「Let’s Grow」は、来年以降も実施される予定だ。
モリソンズの売り上げシェアは、現在11.7%で業界4位。しかし、売り上げは前年比8.5%増で成長率は最大だ(調査会社・TNS調べ)。今日の売り上げを確保するために短期的な価格訴求型キャンペーンを強める一方で、中長期的な視野でのコーポレートブランドを構築しようとする同社の姿勢に、好調の一端をかいま見た。 (広告局ロンドン駐在 川田直敬)
※モリソンズ“Let’s Grow”キャンペーン・ウェブサイト: http://www.morrisons.co.uk/LetsGrow/