英高級紙ガーディアンは、求人広告の掲載で業界をリードする存在だ。同社にとって求人広告は新聞広告の大きな収入源。求人広告に対する力の入れようはセールス体制にも表れており、引き続き同社の広告収入の柱であることには間違いない。しかし、インターネット上での求人広告は増え続けており、オンライン広告市場の23.8%を占めるまでになっている。こうしたオンライン広告への流れにも対応しようという試みが、同社では積極的に行われている。担当はマネジャークラスを含め、総勢115人。業種別あるいは広告会社別に営業スタッフがつき、それぞれプリント、デジタル両商品を扱っている。
欧州では労働力の流動性が高く、労働市場は日本と比べてはるかに国際化しており、近隣諸国からの求人需要も多い。そもそも日本とは転職市場の規模が違うので一概に比較はできないが、そうした環境の違いを考慮しても、ガーディアンはユニークな取り組みを行っている。
大きな特徴は、編集紙面の充実化を求人広告の募集と連動させていることだ。欧米州の新聞社は本紙と併せて別刷り編集紙面をいくつも毎日発行している。ガーディアンは、この別刷り編集紙面を求人広告の募集に活用してきた。
例えば毎週月曜日には、1979年に立ち上げられた「メディア・ガーディアン」で、欧米州を取り巻くメディア環境について報道している。このテーマに関心を持つ読者にメディアやマーケティング関係者が多くなるのはごく自然で、この層をターゲットに求人広告が掲載される。別刷りに同業種の求人広告が定期的に多数掲載されれば、それは編集記事と同様に読者にとって貴重な情報となる。また、編集の質が高まれば、より関心の高い読者がつき、そんな読者を求めてより多くの求人広告が集まる。このような好循環が大きくビジネスを育ててきたのだ。同社のマイケル・レビンさんは「年月をかけて培ってきた編集紙面の力があってこそ、ガーディアンは求人広告でリーディングポジションを維持できる」と胸を張る。ほか、火曜日発行の「教育・ガーディアン」、水曜日発行の「ソサエティー・ガーディアン」、木曜日発行の「技術・ガーディアン」があり、同様に関連業種の求人広告が豊富に掲載されている。
オンラインでの求人広告ビジネスについても、開発に余念がない。同社は、ウェブサイト「guardianjobs.co.uk」の充実に加え、求人データベースの運営も手がけている。求職者は自身の履歴書をデータベースに登録すると、関心のある職種で求人募集があることを知らせるメールを受け取ることができる。「ジョブマッチ」と呼ばれるこのシステムに現在約25万人が登録。全業種を扱っている。特に「大学院卒」「マーケティング・PR」「クリエーティブ」といったジャンルでの登録が多いという。興味のある仕事を紹介されると、登録者は自分で企業にコンタクトを取る。広告主にとっては、広告手法の選択肢が広がるというメリットを享受できる。
今年7月、業界をあるニュースが駆けめぐった。英経済紙のフィナンシャル・タイムズ(以下FT)とガーディアンが求人広告のセールスで提携したのだ。ガーディアンが強い公共部門の上級職と、FTの強みである金融および一般企業の上級職の求人広告を、互いの紙面で掲載しあう。この提携で、両紙併せて約37万人の求職者へ到達することができると試算されている。読者層が根本的に異なるがゆえに、提携する意味があるという大胆な発想。積年のライバル紙と併せてリーチを拡大することにより、広告主に対して効率よく出稿提案できると考えたのだ。新聞広告の営業レベルで互いに手を組む、そんな時代になった。
求人広告ビジネスで景気回復の兆しをいち早くつかみ取り、新聞社の収入源として活路を見いだせるのか。ガーディアンの挑戦から目が離せない。(広告局ロンドン駐在 川田直敬)