英高級紙ガーディアンは、デジタル時代に備えた施策を他社に先駆けて打ち出してきた。同社が運営するニュースサイト「Guardian.co.uk」は、英国ニュースサイトの中で利用者数が最大、今年5月には月間ユニークユーザー数が2,730万を記録、前年比で48%増と破竹の勢いだ。
利用者数が急増している背景にあるのは、英国外からアクセスされていることだ。英国内での5月の利用者は970万人、半数以上が国外からのアクセスだった。
特に北米を重点マーケットと位置づけ、事業拡大を進めている。2007年7月、ニューヨークでデジタルメディア・ニュースサイトを運営するコンテクストメディアを推定1,500万ポンド(約24億円)で買収、10月には「Guardianamerica.com」を立ち上げ、北米向けコンテンツの配信を開始した。
北米での広告セールス体制も強化し、スタッフの補強やセールスネットワークの整備も推進。デジタル時代の波に乗って、グローバルでの自社ブランド確立と収益増を画策している。同社はさらに、英語以外の言語でのニュース配信も検討しているようだ。デジタルメディアは新聞経営を維持するための、十分な収入源となりえるのか? その回答の一つが、現在欧米でにわかに議論されているニュースサイトの有料化である。しかし、ガーディアンは無料サービスを維持すると明言している。広告収入のみならず、デジタルメディアを核にビジネスの多様化を図ることで解決していこうという方針だ。
確かに、同社は広告以外にもすでにデジタルを媒体とした新規ビジネスを多く立ち上げている。収入モデルは、アフィリエイトか、有料会員制が軸となっている。同社ベンチャー事業部長ケイト・モーガンロッキーさんは「ガーディアンブランドと親和性の高い事業分野を選定している。事業化する以上はガーディアンブランドを全面に出し、サービスを通じてユーザーのロイヤルティを高めたい」と説明する。
中でも、軌道に乗っているのが、旅行商品の開発・販売や出会いサイトだ。オンラインショッピングも盛況で、中でもユニークなのはHome Exchangeというサイトの運営。旅行などで留守にする自宅を会員同士で交換し、互いに泊まり歩こうというものだ。有料会員にさえなれば、宿泊費無料で世界中の会員宅に泊まることができる。「宿泊先で掃除などの家事をしなくてはいけないけど、地域コミュニティーとの交流も楽しめるし、ひと味違った旅行体験ができる」とモーガンロッキーさんは笑う。やみつきになった社員もいるそうだ。
現在新しいビジネスモデルとして検討され、話題を呼んでいるのが、ユーザーによる有料制会員クラブの運営だ。「Guardian.co.uk」は現況通り無料配信とし、別個に会員限定の記事・ビデオ配信、イベント招待、オンラインショッピングなどのコンテンツを配信しようというものだ。成功すれば、ロイヤルティの高いユーザーを囲い込むというメリットを享受できるという。
デジタルビジネスに注力する同社だが、その姿勢は広告セールスに関する調査結果にも現れている。英国の広告会社団体「IPA」がデジタルメディアを運営する媒体社(新聞、TV、ポータルサイトなどすべて含む)の広告セールス上のサービスについて、200社強の広告会社にアンケートを実施した。今年3月に発表された報告によると、「媒体社と仕事をして概してよかったと感じている」「媒体社は革新的で創造的なソリューションを提示してくれたと感じる」「媒体社はクロスメディアのアプローチをどのように開発していけばよいか、しっかり理解を示していたと感じる」といった項目で、ガーディアンはいずれも媒体社の中で1、2位の評価を得た。
オフィスを訪問し、企業戦略から現場営業まで、デジタルを核とした増収体制が浸透する同社の姿を目の当たりにすることができた。 (広告局ロンドン駐在 川田直敬)
ガーディアンが運営するウェブサイト「Home Exchange」
※Home Exchange: http://www.guardianhomeexchange.co.uk/