英紙ガーディアンに見る新聞ビジネスのアイデア(1)

 英全国紙ガーディアンのオフィスを訪問した。同社は昨年12月にロンドン市内キングスクロスの新社屋に移転したばかりだ。広告セクションのオフィスに足を踏み入れ、旧来型の新聞社とは一線を画した整然とした様子に目を疑った。

 窓の大きい明るいフロアには120台ほどの新品のパソコンが配列され、比較的若くカジュアルな装いをした社員が肩を並べて、仕事をしている。広告主、広告会社、デジタル、イベントとそれぞれ担当別に緩やかに配置されているものの、社員には自分の机もパソコンも割り当てられていない。出社すれば好きな所に座り、パソコンにログインし、仕事を始める。外出するときは必ずログアウトし、私物も撤去しなくてはならない。現場からトップまで、全く同じ条件。隣に誰が座るか、座らなければわからない。私物や資料などを入れる小さなロッカーが机から離れたところにあるだけ。まさに、フラットなオフィスだ。
 一番の狙いは、社員間でのコミュニケーションを活性化させることだという。特に、デジタルとプリント双方のメディアを広告主のニーズに合わせて効率よくセールスしなくてはならない時代にあって、組織内での物理的な壁を取り払うことが欠かせないと、新社屋にオフィスを移す際に、このフリーアドレススタイルが決定された。ガーディアンのリツ・バトラーさんは「自分の机がなくなることに、社員の間で最初は大きな抵抗があった。でもいざ実行してみると、社内の様々な同僚とのコミュニケーションが自然に増え、意見交換の中から新しい企画や提案が生まれている。特にデジタルやイベントの仕掛けなど、私自身学ぶ機会が増えた。ペーパーレスでオフィスもきれいになったし、環境にもやさしいはず。たまに上司が横に座るから、ネットサーフィンしたい時には、気をつけないといけないけどね」と笑う。

 現在ガーディアンの発行部数は約33万部で全国高級紙としては3位、日曜紙のオブザーバーは40万部ほど。不況で厳しい経営状況に置かれている点では例外でなく、2008年度はグループ全体で3,680万ポンド(約59億円)の営業赤字。今年1月から新聞代を1部90ペンス(オブザーバーは2ポンド)に値上げしたが、赤字を埋めるまでの収益増には至っていない。
 サンデー・タイムズの記事によると、この営業赤字を受け、オブザーバーの廃刊が現在検討されている。オブザーバーは1791年に創刊された、英国の中でも歴史ある名門紙。1993年にガーディアンが買収したが、今回の廃刊のうわさに、業界では衝撃が走っている。
 紙媒体での収益減に対し、ガーディアンは英国の中でもいち早く紙とデジタル媒体の融合に注力し、活路を見いだそうとしている新聞社だ。今回の新社屋移転は、まさにデジタル時代に備えての巨額な投資といえる。編集サイドでも新時代に備えた体制づくりが組織的に進められている。例えば、ニュース、ビジネス、スポーツの各グループに配置された記者は、ガーディアン、オブザーバー、同社ウェブサイト、ポッドキャストという各媒体のために、文字、音声、映像とすべての形態で送稿している。新社屋には、記者が撮影や収録に必要なスタジオも完備されている。
 ただ、コンテンツ制作をすべて自前で賄おうとしているわけでもない。英全国紙のデーリー・テレグラフ、インディぺンデント、デーリー・メールとともに英国国営放送のBBCと交渉、BBCオンラインで配信されたビデオコンテンツの2次利用を可能とした。

 大胆な投資、経費削減と企業提携。メディアの新しいかたちを描き、一丸となってかじを切る同社が実現してきたビジネスのアイデアについて、数回にわたり紹介する。 (広告局ロンドン駐在 川田直敬)

ロンドン市内キングスクロスに移転したガーディアンの新社屋

ロンドン市内キングスクロスに移転したガーディアンの新社屋