海外の広告祭に見た広告業界の未来

 4月19日から3日間、スペインのバレンシアで開かれた国際広告祭「フェスティバル・オブ・メディア」に参加した。この広告祭は、今年が3回目の開催で、欧州・米州を中心に、大手広告主、広告会社、メディアから約600人が集った。海外の広告祭は、会議で業界の最新状況を探るほか、ネットワーク作りの貴重な機会となっていて、参加者は時間の許す限り、昼も夜も精力的に名刺交換を行い、話し込む。特に広告業界内で人の動きが激しい欧米では、自分自身を売り込むという動機が明確だ。ワインやパエリアを楽しみながらも、相手を見すえる眼差しは真剣そのもの。特に昨今の世界同時不況が、お祭りの場にも影を落としているように映った。

 実際、20コマほどの会議を貫くテーマは、ずばり「過渡期にある広告業界」。広告会社から最高経営責任者(CEO)がずらりと登壇し、広告主、メディアからは、国際広告の責任者がゲストスピーカーとして真剣な議論を繰り広げていた。ざっと要約すると、世界同時不況が契機となって、消費者の購買行動も根底から変わりつつある。テクノロジーの進展がメディア環境の地殻変動を起こしている。したがって、広告業界でも新たなビジネスモデルを構築していかなければならないという文脈である。とりわけ印象的だったのは、「同じ舟に乗っている」広告業界の私たちは、広告主、広告会社、メディアと立場は違っても、もっと膝を突き合わせて話し合い、よりよいアイデアをかたちにしていこうという呼びかけだった。私たち自身が互いの現実を理解し、変わるための「よい不況」(Good Recession)にしようというわけだ。

 実際にその動きを、私もすでに身の回りで感じていた。経費削減という厳しい題目が底辺にあるものの、昨秋から多くのグローバル企業が扱い広告会社を見直すために競合プレゼンを行っている。一方、広告会社もオンライン・オフラインの両メディアをより複合的に提案できるよう、組織のありようを大胆に見直している。メディアも苦境にありながら「読者が欲しい情報を欲しい場所で欲しいときに」提供できるよう、新たな手法を開発しようと試みているのだ。

 世界同時不況と広告業界の構造変化を乗り切るための満足な回答は、まだなさそうだ。ただ、積極的な対話によって互いに活路を見い出そうとする欧米流の姿を見ると、きっと何かが生まれてくるという予感がした。

スペイン・バレンシアの会場で議論する広告会社のCEOたち

スペイン・バレンシアの会場で議論する広告会社のCEOたち