今年6月20日から26日まで開催されたカンヌ国際広告祭。今の広告業界の関心事や最新事情を知るため、またそこから新聞広告に生かせることを探るために、東京本社広告局員が行ってきました。カンヌで見て感じたことをリポートします。
生活者を巻き込み、社会を動かす作品に注目が集まる
個人の集まりが、世の中をどう幸せにできるのか――今年のカンヌで集まった作品の傾向をまとめると、こんなことがテーマだったと言えるのではないだろうか。受賞作の大半が、個人と個人のつながりを生み出し、社会を動かしたものだった。残念ながら日本勢の受賞は例年より少なかったが、日本の広告がこれから向かうべき大きな方向を今年のカンヌは示唆していた。
昨年と比べて金融危機の影響はだいぶ薄れ、約2万4千点もの多くの作品が集まり、会場には8千人あまりが訪れた。“カンヌ通”によると、日本からの参加者もかなり多かったそうで、150人とも200人とも言われた。
例年通り、会場内各所で開催されるセミナーやワークショップは目白押し。GREYの主催によるオノ・ヨーコのセミナー、スパイク・ジョーンズが登場したクラフトフーヅによるセミナー、そしてわれらが日本からのユニクロのセミナーなどが、事前評判通り大人気だった。
さて、今年の注目キャンペーンを紹介しよう。まず、間違いなく一番話題になったのは、プロモ&アクティベーションとPRの2部門でグランプリをとった、スポーツ飲料ゲータレードの「REPLAY」。1993年に行われたアメリカの高校(イートンVSフィリップバーグという伝統校同士)のアメフトの試合は引き分けに終わったが、15年後にオリジナルメンバーで再戦し決着させようという企画だ。選手たちは30歳過ぎのたるんだ体に再度ムチを入れ、苦しみながらも当時のチームワークを取り戻す。それをさりげなくサポートするゲータレード――。このドキュメンタリーがインターネットやテレビを通じて4カ月にわたって放映されて話題を呼び、試合観戦チケット約1万枚はあっという間に90分で完売した。そして当日は、スポーツニュースをはじめ各メディアがこぞって試合を取りあげた。日本でも、野球の江川・小林が「空白の一日」から年月を経て再会する黄桜のキャンペーンがあったように、企画自体にはさほど目新しさはないと思うが、各メディアがニュースとして取り上げざるを得ないくらいの、社会を巻き込んだ一大ムーブメントを起こしたことに評価が集まったようだ。
メディア部門のグランプリを取った、キヤノン・オーストラリアの「EOS Photochains」にも注目が集まった。ウェブサイト上に、生活者が撮った写真を自らアップロードし、そこに設定されたキーワード(色・形など)を共有する写真を次の人が投稿、写真が「チェーン」のようにつながっていく。ソーシャルメディアを使った写真のしりとり、連想ゲームのような仕掛けだ。ウェブサイトでの滞留時間が1人あたり12分、投稿される写真は計2万枚にのぼった。キヤノンの同国内でのシェアも上がったとのこと。思わず参加、投稿したくなる仕掛けが評価された。写真を見て次に投稿する人の想像力を膨らませる仕掛けや、見知らぬ人同士がつながり、広がることの素晴らしさが感じられる作品だ。投稿された写真のうち3割強は他社製のカメラによるものだったそうだが、自社製品だけでないつながりによってブランド構築ができたという点も参考になる。
その他のキャンペーンも、ツイッターやフェースブック、ユーチューブなどを含めたSNSを用いた仕掛けがあるのは今や当然のことで、その先にある「どうやって多くの個人をキャンペーンに巻き込んで、どれくらい社会を動かしたか」「どれくらい人の心を動かせたか」という点が評価ポイントとなったようだ。生活者に「伝える」という従来型の手法ではなく、生活者が「自らが参加したくなる」仕掛けが求められた。
また「speed」「simple」「true」といったキーワードも審査員から頻繁に聞かれた。「speed」について驚いたのは、日本では準備に2~3年かかるような大がかりな仕掛け(例えば政府を巻き込むようなキャンペーン)を、2~3カ月で準備してやり遂げてしまうことだ。それぞれの国の背景・事情があるだろうが、見るほうからすると圧倒される。「simple」「true」は広告の原点でもあるが、分かりづらく真実でないものはやはり評価されないし、心を打たない。
さて、新聞の広告営業として行うべき、と思ったことを2つほど。まずは自分の担当業種・担当先企業のカンヌでの取り組みを徹底研究することだ。今年グランプリを取ったキヤノンやトヨタなど日本企業が海外拠点から出品する作品、逆に日本で活躍する外国企業の出品(今年はフォルクスワーゲンやナイキがグランプリを獲得)は参考になると感じた。
もう一つはクリエーターとの連携だ。カンヌでは昼、夜問わず、さまざまな日本のクリエーターたちと話す機会があった。新聞広告の可能性を一緒に考えようとしてくれるクリエーターも多いことに改めて気づかされた。そして、新聞社側からの情報発信やコミュニケーションが足らないことも分かった。「新聞社の営業に初めて会った」「新聞とコラボしたいけど、どうしていいか分からなかった」という声も聞かれた。クライアントと密に接して深い情報を持つ彼らと一緒に組み、キャンペーン構築の初期段階から携わること、そして新聞広告が果たす役割を提案していくことできれば、さまざまな可能性が生まれるのではないのではないかと思う。
(東京本社広告第3部 川﨑紀夫、広告第2部 鈴木麻友美)
文字・絵がその場でTシャツになる
分かる掲示板。タッチパネル式になっている