世界最大級のオンラインマッチングサービスである「match.com」の広告が大きな非難を浴び、たった数日で取りやめとなった。出会いを求める男女をターゲットにした同社の「欠点を愛そう」キャンペーンは、4月から地下鉄の駅貼りポスターなどで展開されていた。
そのビジュアルは、赤毛でそばかすのある女性のアップの写真に、「もしあなたが自分の欠点を嫌っていても、きっと誰かそれを好きな人がいます。」というコピーがあるもの。SNSでは、「そばかすが欠点?」と数多くのネガティブコメントが寄せられたため、急きょこのポスターは撤去されることになった。Match.comの担当者は、「そばかすを欠点と思っている人がいるならそれは間違いで、そばかすはとても美しく自信を持つべきだと伝えたかった」と答えている。
また、昨年の12月からタイムズ紙電子版で始まったグッチの動画広告も、ASA(広告審査協会)から中止を求められた。
この動画に最後に登場するモデルがあまりにも細く、また濃く暗めのメイクアップについて「病んで見える」という苦情が多く寄せられたからだという。広告主と、動画を掲載したタイムズ側は、「モデルはやせ形ではあるが、不健康とまではいえず、また骨のラインは(洋服に隠れて)全く露出されていない」と反論した。しかしASA側はこれを認めず、「モデルのポーズはウエストを必要以上に細く見せており、それに加え、目の周りの暗めのメイクアップは病的に見せている」とした。
体形のことでいうと、プロテイン食品を販売する食品メーカーが行った、「ビーチ用のボディーの準備はOK?」キャンペーンが数千件ものクレームを受けた。そのビジュアルは、鍛えられた腹筋をもつビキニ姿の女性とともに、上記のコピーが掲載されたものであった。
Change.orgという団体は44,000以上もの広告中止の署名を集めたほか、他にも#everybodysreadyでポスターの掲示を中止する投稿を募った。「『現実的ではない(美しすぎる)体形を持つブロンドの女性』でないとビーチにふさわしくないのか」という意見が多く寄せられている。広告主側は、「我々はすべての人に、彼らにとってベストな体になれるように勇気づけたいだけだ」とし、広告を取りさげるつもりはないと答えている。
広告の話とはそれるが、最近英国で人気のプラスサイズモデルのインスタグラムが話題になった。
ぽっちゃり目の彼女のSNSに、「太った牛」という彼女の体形を中傷する投稿があったところ、彼女はそれを受けてポテトチップスをほおばる動画や、ポテトチップスの袋に囲まれた写真をアップした。さらに「ごめんなさい、でも私はやめられないの。この写真や動画は、『デブ』と一度でも呼ばれた人のためのもの」と応えて、大きな支持を受けた。
太っている、痩せている、赤毛、ブロンド、とにかく女性の容姿の取り扱いに対して、社会の目はとても厳しいと感じる。炎上覚悟で話題集めの広告を狙うならともかく、かなり注意してクリエーティブを考えないと、批判にさらされることになってしまう。人種のるつぼであるロンドンでは、人種も複数、さらにハーフやクオーターなども多く、外見もさまざまである。兄弟でも、目の色や髪の色が違ったりすることだってある。広告における女性の容姿の表現への厳しさは、見た目重視の考え方や偏見、差別をなくそうというイギリス社会の意識からきているものなのだ。
ダイエット熱が高まり、バカンスの夏はもうすぐ。どの広告主も、目を引きつつも広く共感を得るための広告表現を追求している。
(朝日新聞社 広告局 ロンドン駐在 金井 文)